初 恋

島崎藤村

まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり


やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり


わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな


林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ

【ふりがな付き】


まだあげ初(そ)めし前髪の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり


やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへ(え)しは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実に
人こひ(い)初めしはじめなり


わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな


林檎畑の樹(こ)の下に
おのづ(ず)からなる細道は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひ(い)たまふ(う)こそこひ(い)しけれ

【ぶい訳】(自己流の訳です)

まだあげたばかりの あなたの前髪が
林檎の木の下に見えた時
その前髪にさしている花櫛の花のように
あなたのことが本当に美しいと思った。

あなたは、やさしく白い手をのばして
わたしに林檎をくれました。
それは、薄紅の秋の実、りんご。
わたしは、初めて人を好きになりました。


わたしが思わずもらしたため息が
あなたの髪の毛にかかってゆれたとき
ああ、わたしは、今、恋の盃を君と酌み交わしていると
思えました。


林檎畑の樹の下にあるのは
わたしたちがここに通って歩き踏み固めた細い道。
「いったい誰が、道ができるほど踏み固めたのでしょうね」と
あなたは尋ねる。
あなたのそんなところがまた愛しい。


初々しい「初恋」のイメージとはちょっと違う解釈です。
だって

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき

って、かなり近い距離ですよね……。

少年の恋ではなく、青年の恋、大人になってしまう少し手前の美しく若い恋の歌のように感じます。

2014/11/13更新


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わたしも、自分の教材で、子どもたちに文字をなぞらせています。
こんなすてきな文字で
こんなすてきな詩が書けたら
どんなにすてきなことでしょう。

にほんごであそぼふぁんさいと

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