◆早食い競争で中3死亡◆


▼フードバトルで死亡事故

 フードバトル競争をして、中3の男子が亡くなったんですが」

 例によって現地の記者から電話が入ったのは、4月27日昼前のこと。

 報道を総合すると、1月15日の給食時に同じ班の他の男子2人とミニ
ロールパンの早食い競争をし、牛乳を飲んだ男の子が、急に教室を飛び
出し、手洗い場で苦しみながら倒れた。のどにパンとサラダを詰まらせて
窒息状態に陥ったようだ。すぐにかけつけた養護教諭らがのどに詰まった
一部を取り除いたものの脳に酸素がゆき渡らない低酸素症状を引き起こし、
救急車で病院に運ばれたが、すでに心肺停止状態だったようだ。

 いったん息を吹き返したものの、重体の状態が続き、3年生に進級した
4月24日に死に至ったもの。

 この学校では、その後全校生徒にアンケート調査を実施。実態把握に
努めた。その結果、全校849人のうち51人もが早食い競争を経験して
おり、その様子を見たと答えた者は1割近い78人に及んでいた。実際に
23人の教師のうち6人もが給食中に注意を促したことがあるという。この
中学校では、フードバトル遊びはかなりの流行を見せていたようだ。

 このように教師は全く知らなかったわけではなく、一定程度把握し、当然
それなりの指導やアドバイスはしていたにもかかわらず、最悪の事態を招
いてしまったことになる。学校側の衝撃にも大きいものがあるに違いない。

 市教委は、学校関係者への会合等で注意を呼びかけたほか、市内の
小中学校に書面で指導したという。

 新聞のコメントでは、教育長は「予想できない事故が起きた。子どもたち
には、食べ物はゆっくりよくかんで食べ、早食い競争などしないように指導
している」と話している。


▼大きいテレビの影響

 この子どもたちは、「テレビ番組を見てまねた」と述べている。確かに、
今年1月には2局で「おしるこ7キロペロリ!」「ラーメン2杯完食60秒」
「すし40カン43秒!」などというフードバトル番組が相次いで放映された。

 これらの平均視聴率の合計は、24%を超えたという。「大食い」も「フー
ドバトル・クラブ」も毎回の視聴率は十数%から二十数%の高視聴率を
取っている。

 私の主宰する臨床教育研究所「虹」では、2002年1月下旬から2月
上旬にかけて都内の公私立小・中・高生200名近くに対して「フードバ
トル」番組に関する緊急アンケートを実施した。その結果では、子どもの
間での視聴率はさらに高かった。

 番組への「接触率」では「よく見る」が21・6%。「たまに見る」を加える
と54・1%と過半数の子どもが見ていた。

 とくに小学生では「よく見る」が26・7%、中学生23・6%と4人に1人
に上っていた。年齢が低いほどよく観ていることがわかる。

 番組の好悪感では、「好き」(「どちらかと言えば」を含む)が36・6%で
「嫌い」(「どちらかと言えば」を含む)の29・4%をかなり上回っている。

 支持率では、今後とも「とても見たい」「どちらかと言えば見たい」は34%。
「見たくない」の25・3%を上回っている。とくに男子は「好き」が42・9%と
女子を10ポイントも上回っている。支持率でも「今後も見たい」とする者が
41・1%と高い。

 こうした高視聴率を背景に、いま学校で重大な異変が生じている。

 「早食い・大食い」競争をして、給食後保健室に倒れこむ児童・生徒が
全国の小・中学校で後を絶たないのだ。

 牛乳を何本も早飲みして、苦痛のあまり口を開いて話すこともできない
でベッドに横たわる子、腹痛を訴えて投薬しなければならない子などで、
昼休みのベッドが満杯になるそうだ。

 この2月ごろから、養護教諭の間で心配していた矢先の事故発生で
あった。


▼給食指導を急げ

 集団で同一メニューを狭い教室という空間でいっせいに食べる方式の
学校給食は、その気にさえなれば、どの教室でもいつでもフードバトル
を行なうことができる条件がすべて整った、格好のステージといえる。

 お調子者の生徒が1人か2人いれば、すぐにでも各教室に広がるだろ
う。いやむしろ、フードバトルが起きない方が不思議なくらいだ。

 したがって、担任を通して各教室の実態把握とテレビのフードバトル
番組について丁寧な指導を急ぐべきだ。

 食事はあまりにも日常的な行為なので教師も警戒心を持ちにくい。

 おまけにテレビに出演しているのは、いかにも大食漢然とした体格の
人たちではなく、外見上も細身で"カッコイイ選手"も多く、子どもたちの
あこがれになっており、やれば自分にもできそうだと錯覚させる。

 しかし、いくつかの誤解と危険に満ちていることを指摘しないわけには
いかない。

 その第一は、彼らは決して一般のカッコよい人などでは決してないと
いうこと。一般のスポーツとは根本的に違っている。まねをし、トレーニ
ングを重ねれば誰でも可能な競技ではない。

 満腹中枢や胃などに特性を持った人々の競い合意にしかすぎないと
いう声もある。したがって、わざわざ局が大きな経費をかけて作成し、
テレビで放映するたぐいのものではないといえよう。

 一般の人、ましてや子どもが無理をすればおなかを痛めるだけ。

 本来、人間には食道や気管に何かが詰まったら本能的生理的に吐き
出そうとする力が働くものだが、このような無茶な状況の下では、いくら
若い身体ではあっても、対応能力の限界を超えている。

 あたかも老人がのどにもちを詰まらせて窒息死に至るように、吐くこと
さえできなくなり、死に至る危険をはらんでいるのだ。

 したがって、フードバトルなどは身体と命に関わる問題として、丁寧に
子どもたちに理解させ、指導する必要に迫られている。それを扱うテレビ
の番組についてもメディアリテラシーの観点から学級で討論すべきである。

 地域の伝統的な祭りで、「大食い」「早食い」のイベントが開催されて報
道するのと、局に舞台を設定して企画・放送するのとでは全く質が異なっ
ている。

 特殊な人々の競い合いをいかにも一般の人も可能であるかのように扱
い、だれでも参加できるような番組を作成するのは、二重の偽りではない
だろうか。

 ぜひ、各学級でメディアのあり方についてもしっかり認識し、学習してほ
しいものである。

【学事出版 月刊生徒指導 up-to-date 2002年7月号】


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