改造法(メンテナンス)

改造とは? 楽器 マウスピース 身体 周辺小物 その他


まずは楽器本体の改造について・・・

先ほど車の例を出して説明した通り、一口に改造と言っても様々な方法があり、その効果も違ってきます。
よく確認の上トライして下さい。
改造にトライする前に、必ず楽器の構造(音の出る仕組み等)を理解していて下さい。
これは何のためにやって、どういう効果がでて、と言うことを理解していないとやる意味がありません。
そして自分自身でも研究、試行錯誤、練習等を進んでやる様にして下さい。
必ず、世界に一本の素晴らしいあなた専用楽器が出来上がる筈です。


最初は修正です。

これは楽器の悪い部分を直し、楽器本来の姿に戻してやる作業です。
特に外国製の楽器は作りが大雑把なためほんの少しいじってやるだけで効果が現れます。
それ以外にも、本来楽器はこういう形の方がいいのに、と思えるところを手作業で細工します。
最近の楽器は明らかにここはおかしいという所(例えばハンダがはみ出ている等)はもう見かけません。
特にヤマハ製の楽器などは修正するような箇所が無いほど精密に出来ています。

もし出来れば、工房(楽器屋さん・リペア屋さん)に持ち込んで、管内部を綺麗に掃除して貰って下さい。
楽器を組み立てるときのハンダ洩れ等で汚れているラッパがあります、最近は少ないですが・・・。




改造の基本
改造するには目的があります。
また、車の例を出しますが、「速く走る」という目的一つにしても、エンジン・足廻り・空力等、改造は一箇所にとどまりません。
楽器は、「バランス」「エアーの流れ」「便宜上の問題」の3種類を良くすればおのずと楽器は良くなります。
それらを改良することにより「吹奏感」「音色」「演奏アクション」等が向上するわけです。



本体改造メニュー

改造箇所

説明

全体
楽器本体のバランスや、管内部等について

ピストン部
ピストン部の調整方法について

スライド部
チューニングスライド、1.2.3番各スライド管の加工

支柱
支柱の位置等について。管を繋ぎ止めている柱も含まれています。

その他
その他の細かい改造等


楽器全体のバランス

簡単に出来る改造から、工房に発注しなければいけない改造まで様々な方法がありますが、出来るだけ解りやすいように説明したいと思います。
一番ポピュラーな方法は、鉛などを楽器の各部に貼り、バランス(楽器全体の振動の伝わり等)を変えてみることです。これなら失敗してもすぐに元通りに出来ますし、その楽器の特性等が調べられて手軽です。
使用する道具は、市販されている楽器用のおもり(バランサー等と呼ばれる)を使ったり、ゴルフのアイアンに貼るおもりが手軽です。
楽器用のおもりは、高価なので手が出にくいかも知れません。(マウスピースのエッジやボトムキャップが一般的、メーカーによってサイズが違うので注意が必要)
ゴルフのおもりは、スポーツショップ等で簡単に手に入ります。種類もはじめから丸や四角に切られている物や、長方形の角が丸い形の物や、自分で好きな形にカット出来る物等様々です。(ほとんどが両面テープ付きで手軽)
どれが良いという物でもなく、必要に応じて購入すると良いでしょう。

次におもりの付ける位置の例を挙げておきます。

箇所

貼り方
マウスパイプ、一番マウスピース側 板状のおもりを巻く。
マウスピースのエッジエフェクターと同じ様な効果。吹奏感が激変します。
吹奏時、手前に来る曲面 上の写真で言うと左の曲面の外側に、長方形のおもりを管にそって貼る。
5年前ほどに流行った。数原氏は10枚程重ねて貼っていた。モネットの楽器を見たことあります?あれの外側版。
ハンダ止めしている対象面 文章で伝わるか不安ですが、例えば支柱がハンダ止めされている場所の、マウスパイプを挟んで丁度反対側(すなわち上側)にハンダ止めされている部分と同じ大きさのおもりを貼る。
これを全部の箇所に施す。振動を対称に伝えるという理論から。
1番バルブからベルに向かって出ている所 板状のおもりを巻く。
ベルの朝顔部分 約7mm大のおもりを、朝顔の手前側に十字を切るように貼る。
ベルの振動の伝わり方を変える。

楽器によって特性が違うので、どこが正解という物でもありません。
例として挙げましたが、結局貼る場所はどこでもいいです。
吹きながらあれこれ試して、一番いい位置(吹奏感・音色・バランス等)を探して下さい。
ほんの少しのおもりでも、音色等が激変する場合もあります。その逆もあります。
改造と言う点では一番手軽なので、遊び感覚で色々試して下さい。

ではもう一つ、ボトムキャップについて・・・。
市販されているボトムキャップですが、必ずしも三つ要る訳ではありません。
一つでも、どのバルブに付けるかで効果は変わってきます。また、ねじの締め具合でも変わって来ます。
日野皓正氏は、一時三つとも付けておられました。(日野氏といえばコルネットのイメージが強かった時期がありましたが、NHKの番組で数原氏と競演したとき、数原氏が「トランペット吹いて下さいよ」と言い、その番組ではTp.を吹いたという逸話があります。確かヤマハ特注モデルで、おもりがわんさと付いていたのを覚えています)
私の好みとしては、1番に付けるのが好きです。(数原氏が、「楽器を吹こうと構えた時、向こう側(ベル側)が重いとベルが下がって暗くなるイメージがある。手前側にバランスの支点があると、よっしゃ!いっちょ吹いたるか、ってなるでしょ?」とおっしゃっていました。同感です)
その他、ボトムキャップの穴の形を変化させたり、大きさを変えたりする方法もあります。

もっと手軽にボトムキャップのチューンナップ
日曜大工店等で水道のパッキンを買ってきます。サイズはボアサイズに近い直径でゴムが細い物。
これをボトムにはめてその上から標準のボトムキャップを締めます。
当然全部締まりきらないですが、外れない程度であればOKです。
これだけでも変わってくるから、あら不思議。
同様に1、3番のスライド部にカチカチいわない様に付いているゴム(バック等で見かけます)を付けたり外したりしても吹奏感や、ピッチが変わってきます。
もう一つの方法は、米国の硬貨(10セントが最良)の真ん中部分に約5mmの穴を開けます。(罰当たりですが)
これをキャップの中に入れて置くだけでも効果(シャレではない)があります。

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ピストン部の調整

楽器の項でも述べましたが、楽器で唯一メカニカルな部分です。
よって「アクションの向上」を中心に「音程の調整」「全体とのバランス」等様々な部分で影響が出てくる大事な箇所です。
ピストン部での一番簡単な改良方法は、バルブオイルを変えてみることです。
なんじゃそら!と言われるかも知れませんが、ツボにはまれば変な小細工するよりよっぽどいい効果が得られます。
バルブオイルには粘度と耐久性という要素があります。普段使っているオイルの粘度はどれくらいでしょう?
時には知人に借りたり、購入時に浮気して他メーカーの物を買ったりして、色んなオイルを試して下さい。
それだけでもいい結果が出るかも知れませんよ。

写真のように、ピストン部はたくさんの部品で出来ています(写真はカリキオ)。まずはこの部品から見ていきましょう。
アクションに一番影響してくるのはバネです。
どんなメーカーのピストンもバネの力で跳ね上げています。このバネを、指で加工してやりましょう。
簡単に言えば、バネを拡げる方に揉みながら縮めていきます。慣れない内は失敗もあると思うので予備を用意しておきましょう。ヤマハやバックなどの有名メーカーなら比較的手に入りやすい部品です。

目標は、押さえる時に軽く、跳ね上がるとき素早くなるようにして下さい。
あまり柔らかすぎますと、普段から(開放の指使いの時)ぷるぷるして不安定になります。
因みに私は、町のバネ屋さんに作ってもらいました(楽器の事を知らない普通の工場です)。

部品の交換
有名メーカー等はかなりの部品が市販されています。
前述したボトムキャップやフィンガーティップ(指が触れる部分)や内部のバネ受け皿等です。
アクションには直接関係してきませんが、音色や吹奏感、音程等が変わってきます。
ヤマハ製品等でプラスティックの受け皿を見かけますが、あれを真鍮製に変えるだけでも違いが出ますよ。
これらもどれが良いという物ではなく、楽器の特性や個人の好み等で変わってきます。

フェルト部の調整
ピストンの穴の調整でフェルトを使っていますが(メーカーによってコルクやゴム等)これの調整でも、音に締まりが出てきたり、音程が良くなったりします。
まず穴の位置が合っているか確認して下さい(2番はわかりやすいですが、1,3番は苦労します)
合っていればとりあえずOK、この項は飛ばしても良いです。
合っていない場合(おそらく0.何mmの世界でしょう)、東急ハンズなどでコルクのシートを買ってきます。
薄さも色々ありますので一番薄いタイプが加工しやすく、またどんな幅でも重ねて使えば利用出来ます。
もっと微調整が必要な場合は、プラ板を加工して使いましょう。
それを穴がぴったり合うように重ねて入れて下さい。(フィンガーティップの裏、シリンダー内部)
また、最初から穴が合っていても、素材をコルクに変えることだけで様々な効果が現れたりしますよ。

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スライド部

真っ先に思いつくのは、エアーの流れをスムーズにしてやる面取りです。
本当は一本の長い管であるべき楽器は、便宜上様々なパーツが繋ぎ合わさっています。
これらの接合部分でエアーが引っかからない様(通りやすい様)、接合面を滑らかにしてやります。
小刀(あれ、何てゆうんやったかなあ?失念)で管のはじを、
距離を長く角度を滑らかに削ります。
この方法は、楽器を手に入れたらすぐにやれ、と数原氏に言われました。

いっぺんに削りきろうと思わず、少しずつ滑らかにしていきます。
この方法は特にチューニングスライド部が効果的です。
1,2,3番管も同様に加工して下さい。
(私のは、楽器を洗うときに指を切るほど鋭いです)
また、マウスピースのバックボアにも同様の加工が有効です。
最後は紙ヤスリ(#1000位の目の細かい物)で仕上げて下さい。
削るときにティッシュを丸めて管の奥に詰め込んでおくと、削りカスが管内部に入り込まないようになります(数原氏直伝!)ティッシュを取り出せば、削りカスも一緒に取り除けます。

バランス
楽器全体のバランスでも触れましたが、今度はスライド部のバランス取りです。
本体同様、おもりを使うやり方と工房に頼むやり方があります。


上から1,2,3番スライドです。
私のカリキオのスライドですが、説明します。
メーカーによって付いているカニ目(バランスを取るためのおもり)の数・場所が違ってきます。
カリキオの場合、1,3番にはカニ目はついていません。
2番に2つ付いています。(
写真ではわかりにくいかも知れませんが、ハンダ跡がある場所と対照的に2個ついていました)
写真は、まず2番のカニ目を両方取って、そのカニ目を元にもう一つ製作して貰い、1.2.3番の同じ場所にそれぞれ付けました。特に3番は、元々唾抜きが付いていたのを取っているのでバランス的に重要な意味があります。(数原氏の理論で言うと、本来吹奏に関係のない物、唾抜きや指掛け、ストッパー等は極力外せとの事でした)
あと明らかに違うのは3番の指掛けです。元々は真円だった物を半分にカットしました。(現在の数原氏は真円のまま)
その他、写真では取り上げていませんが1.3番のストッパー(ネジ式)も使用していません。
(このままでは何かの拍子にスライドが落ちる恐れがある為、普段は髪留め用ゴムで止めています)

FAQコーナーに関連質問が来ました。

以上、私の楽器の説明でしたが、さらに注釈をつけていきます。
カニ目の位置変更や唾抜き除去、指掛け切除はどれも振動の伝わり方を変化させます。
それにより、音程・音色等が変わってきます。デッドポイント(支柱の項で説明します)を外すことも重要です。
これらの加工は自分の手で出来る物ではありません。工房に出し、職人さんの手に委ねなければいけません。
当然、データが必要になるので一般的にはお薦めしません。
やはり簡単に、失敗しても修正のきく(修正時も職人さんの手を使わず)方法が手軽ですよね。
本体と同様に、カニ目はおもりで代用できます。ポイントを探して試して下さい。

勇気があれば、職人さんに3番についているストッパーや唾抜きを外して貰ってはいかがでしょう。
うまくいかなければ元通りにして貰えばいいのですから・・・(だからって元通りにはなりにくいです)

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支柱
メインの支柱はメーカーによって付いていない場合、1本2本の違い等があります。
それ以外にも、何カ所かに支柱は付いています。
これらを改造する一番の目的は、振動の伝わり方を変える(良くする)と言うことです。



これが現在の私の楽器ですが、支柱は2本付いています。
が、1本の時もありましたし、現在も2本ですが、元の場所より移動しています。
これらは支柱があるために音の振動が止まってしまうのを防いだ結果です。音は波形なので波の重なりによって音程が生じます。その重なりの所(デッドポイント)をこういった物で固定してしまうとある音が抜けなくなります。
それで、位置をずらしたり、支柱ごと取り払ってバランスを取っているわけです。
これも楽器によって特性が違ってくるので、どこに付けて何本か、という正解はありません。試行錯誤が必要です。
市販の支柱(ネジ式で取り外しが楽)も何種類か出ていますので、場所や本数
(2本まででしょう)を試して下さい。
他のおもりの場所などによって変わってくるので時間はかかるでしょう。吹きながら確認していって下さい。

本来、全体の項で説明した方が良かったのでしょうがこの項にしました。
写真は楽器下部ですが左右両端のネジ穴部分(ネジは取ってある)をみて下さい。
ここも位置をずらしてあります。
(何度も移動したのでハンダでぐちゃぐちゃですね)これも振動の関係です。
(1.3番を使う音の音程が変わりました)

他の支柱
楽器を真上から見てみて下さい。
ベルを向こう側にすると、左にベル側、真ん中にバルブ部、右にマウスパイプとなります(普通)。
その3つの間にいくつの支柱がありますか?

ヤマハで言いますと、ベルとマウスパイプを支える大きな支柱が二つ
(何とかって言う名前があるのですが失念、3文字だったと思う)、ベルとバルブ、バルブとマウスパイプにそれぞれ一つついています。大きな支柱は二つともベル側を前にして斜めに付いています。
一方バルブの方は2番のシリンダーからそれぞれ付いています。
私が数原氏と銀座アトリエでヤマハの改造機を作っていた際、まず上記の全てを一回取り払い、バルブ部はベル側を3番、マウスパイプ側を1番に付けました。それを基準に距離を測り、同距離に大きな二つの支柱を付けました。
(数原氏の理論・・・両側でシンメトリックになっていないのはどう考えてもおかしいとの事でした)
画像が見にくくてすみません。黒い部分が支柱です。
右側の文字らしき部分は「同距離」と書いてあります。
このヤマハ(YTR800)に施した改造はこれ位でした。
(細かい部分は色々ありましたが・・・。)
この時の数原氏は完全特注モデル(YTR933X銀座アトリエ特注)でした。

この他、例がある改造は、画像で言うと上側の支柱を外し、ひっくり返して付ける、という物がありました。
画像で言うとベル側が下でマウスパイプ側が上になるように付けます。
そうすることによって、ベル部分がより多くの振動を得られるという結論でした。

この様に、方法も様々でここの楽器や演奏する人によって変わってきます。
この辺の改造は何かの参考程度にとどめて置いて下さい。

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その他
パーツを変えてしまう!
何とダイナミックな響きでしょう。
そうです、改造の究極はパーツ(リードパイプ、主管、ベル等)をとっ変えてしまうことです。
ただ、費用もかなりかかってきますし、生半可な知識では失敗するのは目に見えています。
趣味で吹いているのならば必要ないと割り切ってしまう方が良いかも・・・。

これまで示してきた以外にも、唾抜きのコルクを変えたり、改造とは言えないかも知れませんが、メッキのかけ直し、メッキはがし、楽器を吹きっさらしのベランダ等に一ヶ月放置し酸化させたり、色んな方法があります。
そのどれもが、楽器にどの様な変化をもたらすかと言えば、全く変化なしの物や、悪くなる物、良くなる物等こちらも様々です。
結局、楽器によって特性などは違いますし、ハンダの付け方一つでも変わってきます。
研究に研究を重ねて編み出した改造よりも、一瞬のひらめきが良い効果をもたらしたりもします。
楽器をいじると言うことは、それだけ楽器のことを考え、愛していると言うことになると思います。
重要なのは、
何のために改造するのか、その改造はどんな効果が起こるのか、それは何故起こるのか等を、自分で考えて勉強する事だと思います。

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