池上永一 ――


『シャングリ・ラ』 角川書店 (592P \1900)
★★★★☆

 珍しく沖縄の話ではない。だからいつものような強力オバァは出てこない。しかしそのかわり今回はニューハーフのモモコとミーコが出てくる。ふたりの友情最高。池上永一の作品には、いつでも、大きな母の愛が満ちているのだ。で、ストーリーの強引さと感動は『レキオス』を越えた。最初から最後までもう、息もつけぬ、わけわからん面白さだ。いま、本当に楽しめるエンターテイメントな文学を書いてくれてる作家は、奥泉光と池上永一だけ。


『テンペスト (上 若夏の巻・下 花風の巻)』 角川書店 (計:853P \3200)
★★★★☆

 池上永一は当代最高(2008年現在)のストーリーテラーである。異論は認めない。池上作品は文学というより漫画的世界に近いのが、難点と言えば難点。また、多くヒロインを描きながら、その女性像が女性読者にうけないという難点がある。今作品は、ヒロインの魅力が足りないぶん、脇を固める男性陣の“男の優しさ”が素晴らしい。麻真譲先生、多嘉良善蔵おじさん、孫嗣勇兄上の優しさには涙うるうるだ(喜舎場朝薫兄さんは駄目だな)。どこまでフィクションかはわからぬが、琉球王国末期の歴史をしっかり描いているのが見事だ。NHKの大河ドラマになってもおかしくない。候文も、漢文も、琉歌も書けてしまう池上永一とは何者じゃ。そのくせ「檄を飛ばす」「役不足」「憮然」といった言葉の意味をいちいち間違えてるのはわざとなのかな。

 『トロイメライ』 角川書店 (254P \1500)
 ★☆☆☆☆

 『テンペスト』の外伝という触れ込み(なので一応この位置に置く)で、一話ずつ『テンペスト』の登場人物が出てくる。楽しみはそれだけである。話の内容は見事なほどに面白くない。変態女や怪物みたいな男を描いてこその池上永一なのに、普通の処世人の人情話を書かれても、拍子抜け。タイトルの意味(ドイツ語で、夢を見ること)もちっともぴんとこない。


『レキオス』 文藝春秋 (502P \2000)
★★★☆☆

 沖縄に超自然の力“レキオス”が蘇る。超常、宗教、科学、国際スパイと、なんとまあ賑やかで贅沢な話であろうか。はちゃめちゃながらも、なんかスゴソーにまとめちゃう筆者の才能は尊敬に値する。ついていけないところがまた楽し。ついていければもーーっと楽しかっただろーなー。わたしはこの作品は、それなりに大いに(どっちやねん)認めます。人類学者サマンサ女史の変態ぶりがとにかく最高だ。くすくす。


『統ばる島』 ポプラ社 (299P \1500)
★★★☆☆

 八重山諸島を舞台にした連作。オジイの洗骨葬をする女房を描いた『小浜島』が素晴らしい。先祖にしばられるこうした行事は良く言えば「伝統」だが、悪く言ってしまえば「因習」。「因習の嫌な点」を感じさせず、「伝統の良い面」のみ味わえるよう仕上がっている理由はずばり、池上永一に郷土愛があるからだ。この本を読んで八重山諸島に行きたくならない人間がいるだろうかいやいない。池上永一にはもう沖縄名誉県民の栄誉を与えるべきだ。


『夏化粧』 文藝春秋 (341P \1524)
★★★☆☆

 母の愛は偉大だ!赤ん坊の魂には、母の七つの願いが籠められている。その願いをむくろに、人間が形成される。願いを通じて、人は相手を認識する。願いを失った人間は、他人の目に映ることが出来ない。これは真理かもしれないなあ。子供に掛けた願いを取り戻すべく、パワフル母ちゃんが孤軍奮闘する活劇であるが、もうちょっとでボロボロ泣くところであった。やや自分勝手なところがマイナス。池上永一にしては少し大人しい。なにせババァがあまり活躍しない。役者がちょっと足りない。


『やどかりとペットボトル』 河出書房新社 (226P \1200)
★★★☆☆

 エッセー集との位置付けだけど、ノンフィクションとは思いにくい、自伝的小説風の話が多い(特に最初の『キッズ・ア・オールライト』の章)。だって書いてることがかっこよすぎる。太宰の『人間失格』や三島『仮面の告白』を意識してるんじゃなかろか。沖縄が産んだ奇才・池上永一の文章はさすがにおもしろいのだ。沖縄の知られざる風習をいろいろ書いてくれてるところも嬉しいのだが、しかしこれまた、どこまで本当なのかわからない。池上永一ったら、まったくお茶目なんだから。


『ぼくのキャノン』 文藝春秋 (317P \1524)
★★☆☆☆

 池上永一のギャグセンスは見事である。お笑いの台本を書かせたら、いいものができるのじゃないだろうか。さてこの作品、オバァ、樹王、寿隊と、それなりにいいキャラクターなのだが、三者とも、主役をはれるほどの器ではない。わかってしまえば大した謎でもないキャノンの謎を、ずっと引っぱる書き方も失敗ではなかろうか。歴史は受け継がれるというテーマは、嫌いじゃないけど。


『風車祭(カジマヤー)』 文藝春秋 (539P \2476)
★★☆☆☆

 北の文学と南の文学というものがあるとすれば、これは典型的な南の文学。原色でカラフルでエキゾチック。沖縄の伝承に取材した、「マブイ(魂)落ち」(いわばドッペルゲンガーに逃げられた状態)の人々が織りなす、笑えて楽しめるファンタジー風長編となっている。でも、わたしのような、嫌いな人は笑えないし楽しめないだろう。亜熱帯風の濃いユーモアには辟易です。


『バガージマヌパナス』 新潮社 (262P \1359)
★★☆☆☆

 タイトルはたぶん、沖縄の言葉で「わたしたちの島の話」の意だ。う〜ん、ハンパにはじけて落ちついているというか。好きじゃないな。デビュー作からして良い程度に落ちつけちゃってる人は、不幸ではないかとちょっと思った。島の自然や風習など、惹かれる部分はあるけれど、登場人物のバカさに共感できない。ファンタジーノベル大賞受賞作。


『王様は島にひとり』 ポプラ社 (193P \1300)
★★☆☆☆

 あんまり出来がよろしくないエッセー集。文章の上手さは感じられないし(真剣に書いていない様子が窺える)、ギャグセンスがオヤジチックで笑えない。例によって沖縄ネタが多いので、南国ファンなひとは読んでもいいと思うけどね。