『エコノミカル・パレス』出版記念
角田光代先生トークセッション「こんなふうに暮らしている」

―― 2002年10月18日 於 池袋ジュンク堂 ――


PM 5:30 定刻の1時間前。会場である4階喫茶室の前には、早くも待っている人がふたりいる。さて本日のこのレポートに於ける角田光代さまの敬称は「さま」でいかせていただきます。このこころは、ファンだから。

PM 5:40 ジュンク堂は、店内をうろつくと、いたるところに椅子が置かれているので良い。座っていろいろ考える。実物の角田光代さまはいったいどんな感じの人なのか、とっても興味があるのだ。著者近影を含め、片手で数えられるくらいしか写真を見たことがなく、その写真ごとに受ける印象がすべて違う。作品から想像されるとおりの、お茶目でキュートでとぼけて知的で奔放でコケティッシュで等身大の人なのだろうか。

PM 6:00 いつ入れるのか受付に訊きに行ったらちょうど開場であった。先に並んでいたふたりを抜いて入場してしまいました、ごめんなさい。入場料1000円を払い、ドリンクを頼み、さてどこに座ろうか席を物色していたら、係員のおにいさんが「奥から順番に詰めてお願いします」と言う。それってどーよ、ジュンク堂。いちばん先に来た人を、いちばん奥に座らせるってのはどーよ、ジュンク堂。

PM 6:10 いちばん奥と言っても、会場自体が狭いので、角田さまがご鎮座ましますはずの中央席からの距離は、3.5メートルといったところだ。光代さまの真ん前に座れる人は1メートルない。さすがにそこだと恥ずかしいかなあ。

PM 6:20 定員は40名である。ぼちぼち集まってくる。みんな怪訝ながらも誘導に従い奥から詰める。

PM 6:30 定刻となり、まだぼちぼち入場してくるお客さんがいる中、あ、気が付いたら角田光代さまだ。ひょい〜っと真ん中の席にやってきて、ちょこんと座った光代さまは、ざんぎりパーマ頭に、クリスマスに着るようなざっくり柄のとっくりセーター(ただしノースリーブ)に、穴のあいたブルージーンズ姿だ。犬みたいでチャーミングな人だあ。スポーツクラブに通っておられるそうで、小粒ながらも、イメージよりは上半身がしっかりしている。「エコノミカル・パレスをお読みになってくれた方には誤解されちゃうかもしれませんけど、穴のあいたこのジーパンはお金がないからじゃありませんから」と笑いを取って、トーク開始だ。

PM 6:35 『エコノミカル・パレス』は、角田さまと同年齢の35歳、清貧フリーターカップルの話なのだ。なぜこの小説を書こうと思ったのか。そこからトークが進んでいった。以下は、わたしの記憶だけで書いているのでもちろん間違いがあり、実際に光代さまが語った内容とはニュアンスも多く異なるものであることをご了承ください。

「このたび引っ越しをしたら、街がなんだか怖かった。なぜだろう?と考えてみたら、前の街にはいなかった地べたに座る若者や、夜中に遊んでいる若者が怖いのだと気がついた。」
「前は怖かったおまわりさんが、いつの間にか怖くなくなった。おばさんになったと思った。」
「私たちの世代の前には、学生運動があった。高度成長があった。若者の手で社会が動いていた。」
「私たちの世代は、社会に参加しないことで参加している。」
「調べたところ、“フリーター”という言葉は、私が大学を卒業する前の年に生まれた。」
「大学を卒業して、友達もみんな就職しなかった。バブルの頃で、いいアルバイトがいっぱいあった。」
「この小説を書くにあたって20歳の若者から話を聞いた。『フリーターなんてダサい生き方だよ』と言っていたので、ものすごいと思った。」
「ジェネレーションギャップというものはものすごいと私は思う。」
「いまの若い人が書く小説にはすごく興味がある。」
角田光代さまはいくつかの講演会をこなし、ライタースクールの講師もなさっているようで、人前で話すことには慣れていらっしゃる。トークがスムーズだ。椅子が木なので滑るのだろう、話しているとだんだんお尻が前にずれてきて、上体が沈み、セーターの裾がめくれる。座り直して、セーターを引っ張って、水を一口飲んでトークは続く。上記の他に印象的だった角田光代さま的キーワードとしては、
「私が23歳で作家デビューしたとき、文壇は大御所と呼ばれる人たちばかりで、J文学もなく、シブヤ系もなく、私にはずっと負い目があった。」
「旅(主に東南アジア)に出ると、時代の動いているのが見える。」
「いまは不景気だと言われるが、小説を書いて食べていけてるくらいだから、実感はない。」
「私たちは安心して歳を取っていける。」
う〜ん、こうやって字にしていくと、違うなあ。実際には“ですます言葉”で話しておられたし、やっぱりわたしのレポートが悪い。ごめんな、読んでくれてるあなた。なにより角田光代さま、ごめんなさい。

PM 7:30 1時間のトークを終え、ここから質疑応答ターイムである。「角田さんはいままでずっと同年代の人たちを書き続けていましたが、今回小説中に20歳の男の子を登場させたのはどうしてですか?」との問いに(質問したのは、実は講談社の編集のひと)、「私たちの世代は、たまに若い子と話さないと、いつまでも自分が若いと勘違いしてしまうので、若い子を登場させて主人公をこらしめてやろうと思いました」とのことだ。他にはオイシイ質問がなかったので、割愛させていただきます。

PM 7:45 拍手で終了。『エコノミカル・パレス』を買った人は、これからサインがもらえる。普通のサイン会と違って、すいてていい。ペンはゼブラの“マッキー”であった。わーい、わたしも使ってるぜ。(だから?)

角田光代さまは、作品から想像されるとおりの、お茶目でキュートでとぼけて知的で奔放でコケティッシュで等身大の人だった。ファンを続けさせていただきます。