新田次郎 ――


『八甲田山死の彷徨』 新潮文庫 (267P \476)
★★★☆☆

 真冬に読む本じゃねえな。あまりに寒すぎる。部下は上司を選べない。指揮系統が阿呆やから部下が苦労するという日本組織の悲劇を見た。しかしこの本を読んで意外だったのは、八甲田山といえば、ほぼ全滅した第五聨隊の悲劇ばかりがイメージされるが、同時に(逆方向から)出発して八甲田山踏破に成功した第三十一聨隊がいたという事実だ。過酷状況下での人間のもろさと逞しさを同時に味わえる名作だ。


『強力伝・孤島』 新潮文庫 (281P \438)
★★★☆☆

 間違っても「きょうりょくでん」と読んではいけない。小麦粉の話じゃないので「きょうりき」でもない。山に荷物を運ぶ「ごうりき」の話だ。いやあ、硬派だね。極限状況で生きる男の美学というところか。この作品集、女はチョイ役を除きちっとも出てこないのが素晴らしい。色恋を書かずにはいられない、ちゃんちゃら軟派な現代小説とは大違いだ。直木賞受賞の『強力伝』、かのベストセラーのモト『八甲田山』といった、いわゆる新田次郎らしい登山短編より、民話調の『おとし穴』『山犬物語』のほうがずっと面白いのが発見だった。