真保裕一 ――


『奪取(上・下)』 講談社文庫 (計:974P \1428)
★★★★☆

 とてもブ厚い上下本だけど長さはまったく感じない。偽札作りをテーマに、日本推理作家協会賞と山本周五郎賞をW受賞した娯楽エンターテイメントの傑作だ。ハラハラドキドキのアクションはもちろん、涙と笑いがたっぷりあるのがたまらない。登場人物は悪役までも含めて全部愛したくなってしまう。一万円札を一枚、座右に置いて読むべし。(→誤植情報


『密告』 講談社文庫 (581P \819)
★★★★☆

 惚れた女に悪く思われたくない一心で、密告者にさせられてしまった汚名をすすごうと孤軍奮闘する主人公は、哀れでナサケナイ。保身を考え、彼を陥れようとする汚職警官たちもナサケナイ。男のナサケナサがぶつかって、やるせない共感を生むのがこの小説だ。鬼の警察官だって、みんな弱くて、そしてやさしいのだな。くー、泣ける。対し、女性はちょっとヤな感じに描かれている。強い人は、踏ん切れない主人公に我慢できないだろうから、読まんでいい。


『繋がれた明日』 朝日新聞社 (416P \1700)
★★★★☆

 とかくに人の世は住みにくい。この小説は、世間というものの縮図だ。大人社会にとって、結果というものがいかに重いかを教えてくれる。普段からいかに自分の行動に責任を持って生きられるかが大人なのだ。保護司の大室さんの優しさには、わたしゃ頭が上がらない(灰皿を蹴飛ばすシーン最高)。この作品、一般的にはそれほど評判が良くない。“殺人者”隆太に共感ができない、とする声が多い。“殺人者”の話として読んじゃダメなのだよ。ちょっとした読み方の違いなんだと思う。


『灰色の北壁』 講談社 (240P \1500)
★★★☆☆

 出世作の『ホワイトアウト』を超えたと思う。圧倒される山岳小説だ。良い意味でも悪い意味でも、非常に男臭い出来だと言える。良い意味では、山男の強靱さとロマンが感じられる点。悪い意味では、仲間同士の確執や嫉妬が描かれており、これもまた男の本性であると認めざるを得ない。山男ってえのは、もっとさっぱりした気性であって欲しいと個人的には願うゆえ、複雑。


『ホワイトアウト』 新潮文庫 (637P \781)
★★★☆☆

 日本最大の貯水量を誇るダムがテロリストに占拠された。吹雪と険しい雪山に守られたその砦に、警察が近づくことは不可能。そこで立ち上がったのが、ひとりのスーパーなダム運転員である。お約束のハードアクションである、ハリウッド映画である。もろ「ダイハード」「クリフハンガー」の世界である。ストーリーはまあまあで、ラストも感動できる。ただ状況説明が専門的過ぎでクド過ぎなんで、流して読もう。吉川英治文学新人賞受賞作。


『ボーダーライン』 集英社文庫 (584P \800)
★★★☆☆

 これも“ノワール”だ。笑顔で人を殺していく少年と、小心者探偵の闘いだ。弱いくせに正義感ぶっている探偵の言動が鼻につく前半であったが、後半の彼の変わりようは読ませる。読後感も、ノワール小説ならではのやるせなさと、明るい感動との闘いになる。なかなかちょっとおもしろい。舞台はアメリカであり、かの地でアジア系やメキシコ系がどう生きているかを知る面白さもある。


『盗聴』 講談社文庫 (281P \467)
★★★☆☆

 ハードボイルドでユーモアがあって、大どんでん返しもありの、中短編ミステリー5話を収めた一冊。いずれもかなりの力わざだ。これでもかあれでもかと複雑に書くことを筆者は楽しんでいる模様。大した手掛かりもなく真相を解明してしてしまう素人探偵さんたちはスーパーすぎ。舞台(登場人物の職業)の豊富さはさすが。固いこと言わずに楽しみましょうか。


『ダイスをころがせ!』 毎日新聞社 (459P \1800)
★★★☆☆

 選挙の話だ。実際の選挙運動の仕方や、資金のやりくりなど、とても勉強になっていい。惜しむらくは、政治資金規正法はしょっちゅう改正されているはずで、2001年に書かれたこの本はすでに古いってことだろうか。細かいプロットはさておいて、選挙に立候補した友人を支える仲間たちの青春小説として、とても気持ちいいわけである。男の気持ちをこれっぽっちも理解してない、主人公の妻の最悪女っぷりがまた笑える。


『アマルフィ』 扶桑社 (371P \1500)
★★★☆☆

 外交官・黒田康作の造型が非常にいい。外務省というお役所の中で孤軍奮闘する正義漢・黒田。これまでのエンタメ小説の中で、外交官というヒーローが描かれてこなかったことが不思議にさえ思う。黒田を主人公に是非シリーズ化して欲しい。と、シリーズ化を願った理由は他でもない。本書の出来がイマイチだからだ。ストーリーがかなり強引で、全編イタリアロケのための観光地移動がまずありきという感じ。せっかくキャラクターたちが魅力的なのに、やっぱテレビ局とのタイアップはろくなもんじゃねえ。(→誤植情報


『ローカル線で行こう!』 講談社 (429P \1500)
★★★☆☆

 突如就任した女社長が赤字ローカル鉄道を立て直すという、元気の出る系ストーリー。この本の主役は社長の篠宮亜佐美かも知らんが、助演を努める副社長、鵜沢哲夫の活躍が、最優秀助演男優オブ・ザ・イヤーをあげたいほどに素晴らしい。県庁から第三セクターに出向してきた役人という、微妙な立場を実に巧く演じている。決してスーパーマンではなく、悪い意味で公務員体質が抜けない哲夫。彼がこんなに頑張るのだから、「よーし自分も頑張るかー」と、読んでいて思わされちまう。亜佐美と哲夫、それぞれの恋愛パートの使い方がまた上手。(→誤植情報


『防壁』 講談社文庫 (303P \533)
★★★☆☆

 この作品集に登場するのは、警視庁警護課員(SP)に、海上保安庁特殊救難隊員(ダイバー)に、陸上自衛隊不発弾処理隊員と、そして消防庁の消防士。いずれも任務に際しては、人間らしい感情を排除しないとやっていけない職業だ。でもそこは人間だから感情はある。そのへんのジレンマがテーマの、プチ高村薫って感じかな。真保裕一にしてはじっくり読める部類だ。主人公たちがみな少々足りない単純野郎なところが本当っぽくていい。


『誘拐の果実』 集英社 (484P \1900)
★★☆☆☆

 なんだか大袈裟。ちょっと変わった誘拐事件なだけなのに、前代未聞の大変な事件だ!みたいに警察が気負って捜査しているところが恥ずかしい。真保裕一ってこんな芸風だったっけ?とちょっと思う。東野圭吾あたり、特に『白夜行』を意識して書かれているような印象を受ける。アイデアは『白夜行』に負けじと良いんだけど、作り方が雑に思う。あと、女性作家は、こういう単純に残酷な話は書かないだろうなあと思ったことを付記しておく。


『トライアル』 文春文庫 (282P \448)
★★☆☆☆

 競輪屋さん、競艇屋さん、オートレース屋さん、競馬屋さんの、プロフェッショナルな“男”ぶりを書いた中編集だ。ちょっとしたドンデン返しが用意されているわけだが、読んでいてほとんどオチが見えてしまう。そうとうクサイ感動である。最後の競馬屋さんの話以外はおんなじ。


『栄光なき凱旋(上・下)』 小学館 (計:1257P \3800)
★★☆☆☆

 3人の日系二世の目を通して太平洋戦争を描く。力作だけど、エンタメ作家が無理して戦争文学を書いてるようで、退屈。ジローの話はともかく、性格も境遇も似たヘンリーとマットの話まで詳しく描く必要があったのか疑問だ。人種差別を描きたかったのか、戦争の悲惨さを描きたかったのか、単なる殺人事件を描きたかったのか、はっきりせよと言いたい。素朴な疑問だけど、白人が日系人を見たとき、一目で日本人だってばれるものですかね。中国人に見られるのが普通だと思うけどな。(→誤植情報


『猫背の虎 動乱始末』 集英社 (355P \1600)
★★☆☆☆

 同心、虎之助の事件簿。時代劇といえば勧善懲悪と人情でありそれに準じているのはよいのだけど、もう少し軽快に描けなかったものか。安政大地震を舞台にしたのは東日本大震災を意識してのことかも知れんが、事件の切り口が重い。主人公の長身・猫背体型をちょうど表すように話の運びが重い。


『ブルー・ゴールド』 朝日新聞出版 (386P \1600)
★★☆☆☆

 いちばん面白かったのは最初の一行だ。「藪内之宏は激怒した。必ず、あの強欲でさもしい部長を殴る、と決意した。」真保裕一にしてはなんて洒落の効いた導入だろう。しかしユーモアがあったのはここだけ。残りはビジネスエンターテイメントと言うより、やってることは完全にチンピラヤクザ的で、非常に気分が悪かった。作品世界のスケールの小ささを、やたら複雑なストーリーで誤魔化す手法もやめるべき。


『奇跡の人』 新潮文庫 (574P \743)
★★☆☆☆

 あまり奇跡奇跡と奇跡をゴリ押しするな。くさいぞ。好き嫌い分かれる問題作だと思う。わたしは嫌い。解説者は(解説の常であるが)絶品であるとベタ褒めしている。それもわかる。人によっては涙ボロボロの、感動だけでなく別の意味でも堪えられない一品になることだろう。わたしは別になんとも。これ以上詳しいことはとても触れられませぬ。何を言ってもこれから読む人のためにならない。


『オリンピックへ行こう!』 講談社 (285P \1500)
★★☆☆☆

 卓球経験者なら楽しく読めるんだろうか。ボールの打ち方やら回転やら、描写がマニアックで、細かすぎて、ついていけない。そもそもオリンピックは関係ない、ただのスポコン小説やん。卓球をやる人間は他人の心理を読むのに長けてると持ち上げたり、卓球の試合をやたらドラマチックに演出していて、キモい。オマケの短編の、競歩編とブラインドサッカー編は、卓球編よりはまともだが、それでもやっぱりやりすぎで、クサい。


『遊園地に行こう!』 講談社 (349P \1500)
★☆☆☆☆

 臭い。いくら遊園地は夢を売る商売だからって、愛だの目標だの笑顔だのって..アホじゃなかろか。連作集の形をとっており、前半は登場人物を順番に紹介していくだけのような内容で、つまらなくて投げようかと思った。ある事件を切っ掛けに、後半は話が繋がり、少し面白くなったかなと思いきや、やっぱり愛だの夢だのって、あまりに現実味のない事件解決で唖然とした。


『デパートへ行こう!』 講談社 (375P \1600)
★☆☆☆☆

 真保裕一らしからぬ駄作だ。泥棒さんや家出カップルなどが深夜のデパートで鉢合わせするドタバタエンターテイメントであるが、登場人物が多くてゴチャゴチャし過ぎ。視点(語り手)がコロコロ変わるから、集中して読めず腹立って仕方ない。しかもいわゆるDQNな登場人物が多いから、誰ひとりにも共感出来ず。最後は上手くまとまったな〜と真保裕一がほくそ笑んでるとしたら凄く嫌だ。(→誤植情報


『追伸』 文藝春秋 (271P \1429)
★☆☆☆☆

 書簡形式小説だが、たまらなく不自然。離婚しようかと喧嘩してる夫婦がこんなに長い手紙をやりとりするはずないじゃないか。挿入される、祖父母が書いた昔の手紙も、文体がとてつもなく不自然。手紙とは、相手に気持ちを伝えるため書くものなのに、その大原則が無視され、ストーリーを語るだけのただの道具に成り下がってるから、最悪。書簡小説を書くのは純文学作家じゃなきゃ無理だよ。


『黄金の島』 講談社 (548P \2000)
★☆☆☆☆

 暗い。なんでも“ノワール小説”と言うらしい。真保裕一っぽくない。高村薫に馳星周が入ってる。長い。そして実がない。唯一読み応えのあるのが、クライマックスの台風シーンだが、そこすら冗長だ。日本はもっといい国だと思うよ〜、真保さん。日本に夢破れたたかが一ヤクザが、日本に夢持つ若者たちをもてあそんだら可哀相だ。


『連鎖』 講談社文庫 (407P \619)
★☆☆☆☆

 食品Gメンが放射能汚染食品の横流し事件を追う、謎解きミステリー。江戸川乱歩賞受賞作で、応募規定枚数の制限があったから、という理由もあるらしいが、詰め込みすぎで複雑すぎ。いちばん盛り上がるべき謎解きシーンが、読んでてイヤになるミステリーなど初めてだ。途中の展開も別に。