玉岡かおる ――


『夢食い魚のブルー・グッドバイ』 新潮文庫 (268P \438)
★★★★☆

 若者のさわやかなラブストーリーだ。それでいてどこか古風。有吉佐和子や宮尾登美子が書く“おんなもの”が現代のキャンパスに蘇った感じだ。恋愛、就職、家庭問題。ときおりの笑いと、ときおりの涙。贅沢な一品だ。水槽の中のブラックバスを自らに置き換える表現も面白く、読んでいて幸せだった。有吉や宮尾が書いた昔のおんなたちが、主人公の旅立ちを微笑んで応援してくれてる。処女作の神戸文学賞受賞作。


『天涯の船(上・下)』 新潮社 (計:743P \3300)
★★★★☆

 玉岡かおるの描く女性はわたし大好きである。清楚な中に凛として。運命に流されながらも自分を貫く、強い女。「第一部」を読んでいる時点では、なんてすごい名作だろう!と思ってたのだが、この大作の難点は、いささかドラマチックに過ぎるところ。後半はもう展開が見えているというか。愛する男と何度も遇えてしまうミサオってば、なんてうらやましい。そしてヒーロー役の彼は、やさしすぎて、準主役としての魅力にちと欠ける。この小説でいちばんの魅力あるキャラクターはやっぱり、第一部にしか出てきてくれない、お勝さんでしょう。それにしても、しっかりと、見事に書き切ってくれたものである。この力作にカラい点を付けたら、玉岡さんに悪い。松方コレクションに興味あるひとにもおすすめ。


『サイレント・ラヴ』 新潮文庫 (349P \514)
★★★☆☆

 この作品を読むと、「片思い」と「片恋」の違いがわかる。しぶい言葉ですね、片恋。代々のジンクスに囚われ、片恋から前に進もうとしない主人公には、同情よりもイライラを感じてしまう。そこが個人的に(自分と似ているから?)もうひとつだったが、ドラマチックな作りはうまいものだ。コバルトのノリで純文学してて、読書の楽しみ要素がいっぱいだ。


『をんな紋 まろびだす川』 角川文庫 (306P \533)
★★☆☆☆

 祖母、母、娘へと姓を越えて女系で伝えられていくのが“女紋”。昔の村の写実的な描写はステキとして、で、どこのどのへんが“女紋”的な話なのかまったくぴんとこなかった。ハルの出産シーンだけはものすごかった。

 『をんな紋 はしりぬける川』 角川文庫 (441P \705)
 ★★★☆☆

 第一部『まろびだす川』の印象は正直覚えていない。今回は良かった。波瀾万丈、生々流転、強い女たちが、流れる、流れる、流れる。スゴいぞ玉岡さん。嫌になるくらい濃い事件の連続だが、嫌にならないのは、書き方のセンスがいいのだろうな。ただ急ぎ足で走り抜けてるので消化しきれてない気はする。


『ラスト・ラヴ』 新潮社 (347P \1500)
★★★☆☆

 大河(男の名前)を「タイガ」とカタカナ表記するのはやめろ。ま、それはおいとくとして、恋愛に関してかなり考察をさせられる内容の話である。赤いワインが欲しかったのにそこにはなく、だから白いワインをもらい、そうね私は初めから白いワインでよかったのよと思い込もうと..する?さてあなたは主人公が取った行動に共感できるかな。結論に納得できるかな、むかつくかな。


『恋をするには遅すぎない』 角川文庫 (159P \381)
★★★☆☆

 若い恋を応援するエッセーだ。愚かで、考えなしで、向こう見ずで、そして一途で、恐ろしいほどのパワーがある、それが恋だと筆者は言う。うむ、それはそのとおりであると思う。恋に突っ走った筆者の知人たちのエピソードはどれもロマンチックで痛快だ。いけいけべいべー、である。


『お家さん(上・下)』 新潮社 (計:650P \3200)
★★★☆☆

 鈴木商店の女主人、鈴木よねを描いている。歴史小説としては悪くない。しかし主人公の影薄し。もともと鈴木よねを“偉人”として描き切るのは無理があると思う。鈴木商店が隆盛を誇れたのは、金子直吉はじめ、西川文蔵、高畑誠一という天才商人がいたからだ。女主人はただのお飾り。他の誰でも出来たはずだ。書くネタがなかったせいか、義娘・珠喜の恋に相当のページをさくなど、制作の苦労が偲ばれる。


『なみだ蟹のムーンライト・チアーズ』 新潮文庫 (313P \427)
★★★☆☆

 玉岡かおるの作品は、タイトルのミーハーな響きとは裏腹に古風で読み応えがあるから、なめてはいけない。それにしても、蟹に主人公を譬えて恋愛を描くのはどうかな。海という故郷に背を向けて、ハサミがもげても歩いてゆく、強い生命力のシンボルとして蟹が描かれているが、蟹って強いか?海で蟹を捕まえて、飼おうとしてもすぐに死んでしまい、そのあとはやたらと臭くて閉口した想い出しかわたしにはない。


『捨て色』 角川文庫 (275P \480)
★★☆☆☆

 忍ぶれど色にいでにけりわが恋は。と、色にこだわった7つの恋の短編集だ。一作ごとに作風もカラフルなので、これ好き!これイマイチかな〜、と個人的好みがわかる一冊だと思う。わたしの好みはまず『似紫を待たないで』。薄紫の薔薇にこだる男を書いた、なんとユーモア小説で、これは笑えた。それと、赤いスポットを浴びて演じる女の独白小説『からくれなゐに』は、なんとなく太宰の『人間失格』っぽくて、好かった。


『ホップ ステップ ホーム!』 実業之日本社 (312P \1300)
★★☆☆☆

 エッセー。50にして大阪で一人暮らしを始めた日常を綴っている。韓流好きで、旅行好きで、いかにも万人が想像できるとおりの「おばさん」って感じである。著者は「自称オバサン撲滅委員会会長」とのくだりがあるのだが、いやいや立派なオバサンですから(笑)。こういうひとが友達にいると、楽しいか、煩わしいかどちらかだろう。文体は、良く言えば短歌風で軽快であるが、悪く言えば体言止めの多いブツ切れなので、これまた好きか嫌いかどちらかだろう。(→誤植情報


『銀のみち一条(上・下)』 新潮社 (計:623P \3280)
★★☆☆☆

 この長編の難点はズバリ、主人公が誰なのかはっきりしないところだ。誰と誰が好き合ってつきあおうとしているのかさっぱりつかめない。そもそも序章で華々しく登場したフランス人技師(の子孫)が、本編ではちっとも活躍しないってのはどうなんだ。まさかこの本は、先を考えず行き当たりばったりで書かれたんじゃなかろうか。話の芯があちこちにずれて、ちっとも銀のみち“一条”ではないなと思った。(→誤植情報


『蒼のなかに』 角川書店 (370P \1700)
★☆☆☆☆

 痛い話だ。なにせ母娘そろって癌だ。よく勉強して書いてある小説だとは思うが、痛さしか伝わってこないから嫌になる。それと主人公への嫌悪感。手術しても綺麗な身体で男と愛し合いたいだなんて、わからなくはないけど、中年女の嫌らしさ丸出しで嫌になる。いくら小説の主人公だからって、仕事と男を追いかけるしか能のないこんな女に、どうしていい男がいっぱい言い寄ってくるかねえ。(→誤植情報


『クォーター・ムーン』 新潮文庫 (537P \629)
★☆☆☆☆

 クォーター。25歳の女性のラブドラマ。月のエピソードがいくつか出てきて、章タイトルが「かぼそ月の章」「ゆみはり月の章」「みつる月の章」「あまる月の章」となっているのがステキだ。しかし肝心の中身はちと..。独特の古風な魅力は息を潜め、ごっつフツーめのオフィスラブストーリーになってしまった。長い話だから、わざとなのか、描き方は希薄。


『ひこばえに咲く』 PHP研究所 (314P \1700)
★☆☆☆☆

 画家の伝記を書くなら普通に、伝記のみに徹して欲しかった。画廊の中年女の恋愛話がまったく邪魔であるし、時系列もごちゃごちゃして、おまけに文体までいつもと変えてスカしていて、読みにくい。ケンとフクの朴訥とした魅力に対して、画廊女の俗物なことよ。50にもなって仕事中に携帯電話をいじって彼氏からのメールに夢中とか、やってることが若いギャル以下で、痛すぎる。高尚な芸術話を、低俗なエロ小説に貶めた最大の戦犯がこの画廊女。