『サヨナライツカ』出版記念
辻仁成先生サイン会レポート

―― 2001年1月27日 於 渋谷 阪急ブックファースト ――


昨夜の雨は、朝起きたら雪になっていた。真っ白な世界。アルがママに会える日だ。そしてわたしエラソーニは辻仁成先生に会いに行く。

PM 2:20 渋谷駅に到着。それにしても、ロマンチックな気分など飛んでしまう、シャレにならない降りだ。東京としては3年振りの大雪とか。雪と、ときおり吹く強風に、背中を丸め歩く。こんな中でもシブヤをゆくジョシコーセーはナマ足だ。ルーズソックスをたくし上げたい衝動に駆られないのだろうか。太ももまで十分に保護できそうだ。

PM 2:28 よたよたとブックファーストに到着。入口を入ってすぐの、売場の一角が会場のようだ。サイン会の垂れ幕があり、机が置いてある。列はまだ出来ていない。待っている女性ファンが5人ほど。特に、真剣な表情で机の前にじっと立っている白いコートの女の子が心にとまる。

PM 2:30 2階の文庫売場で時間潰し。辻先生は腕時計を持たない人だ。エッセーに書いてある。しかもこの大雪だ。3時の開始は大丈夫だろうか。

PM 2:45 1階の会場へ戻る。列はまだなし。あくまで「列は」である。売場に近いため、フリーのお客さんと、サイン会を待っている人の区別がつかない。ぐちゃぐちゃの混雑だ。たぶん30人くらいが待っている人かな。係員は並んで下さいとも何も言わない。なんかテキトーだ。

PM 2:52 ようやく係員が、「階段にお並び下さーい!」。民族がぞろぞろ大移動。会場は死角になってしまった。階段の壁には、近いところから「1〜9」「10〜19」「20〜29」・・と紙が貼っており、整理券の番号の場所に並ぶことになっていた。なかなかいいシステムだ。わたしは12番。早い整理番号の威力があったサイン会は初めてだ。じつはこの券、仕事で来ることができない、さる親切な方から頂いたものなのです。わたしはこの店で本を買ったのじゃないのだ。Sさんありがとう。ブックファーストさんごめん。早い時間から並んでいたのだろう、あの白いコートの女の子は、後ろの方に行かされてしまった。かわいそうに。

PM 2:55 並んでいるメンツの傾向は、どのサイン会でもだいたい同じだ。若い女性が多めだが、男性もけっこういる。年輩だっていないわけじゃない。係員が「サイン会での、写真撮影、握手はご遠慮下さい」と告げて歩く。え?写真はまだしも、握手まで?サービス悪いじゃん。しかも整理券には、自分の名前を書く欄もない。(どうせ書かないけど。)

PM 3:02 会場の方で、一斉に拍手が起こった。辻先生が到着されたようだ。5人ずつがサインをもらいに進む。なにせ12番だ。ペースも速い。出番はすぐだ。

PM 3:04 会場が見えた!あ。ビデオカメラが回っている。照明とハンドマイクも。なにかの撮影だ。サービスの悪い理由はこれだったようだ。辻仁成先生が見えた!金髪だ!真っ赤なタートルネックのセーターに、毛皮のブルゾンだ。らしい格好だ。いまサインをもらってる女の子は、けっこう会話して、自分の名前を書いてもらって、しっかり握手までしている。なーんだ、大丈夫じゃん。

「こんにちは」。辻先生はささやくように言った。コンニチハ..。テレビで見るよりもほっそりと見える。うれいのある微笑み。やさしい孤独を背負っているような。世界を持っているお兄さんだ。サササッとアルファベットを書いていく。長い"T"が素敵。そして顔を上げ、こちらを見つめる。吸い込まれそうだ。先生はため息のような声でまたささやく。「寒い中、ありがとうございます」。アリガトウゴザイマス..。感動する間もなく、なんだかあっと言う間に終わってしまった。

PM 3:30 サインをもらっても女性ファンは辻先生が見える位置から離れない。もちろん白いコートの女の子も。他の売場で買い物を済ませわたしが戻ってきた時は、100数十人いた列はもうほとんど終わり。やっぱりものすごい速いペースだ。カメラさんは片づけを始めている。

PM 3:35 「整理券をお持ちの方はもういらっしゃいませんかー?」係員が叫ぶ。「ではサイン会を終了させて頂きます」。みんなが拍手。辻先生が立ち上がってお辞儀。売場の奥に去っていく先生をファンの子たちが見送る。白いコートの女の子は、目を真っ赤にして泣いていた。雪は少し小降りになった。