[11月19日]家のそばに「ポロト沼」にオオワシの若鳥が、たぶん魚か何かをついばんでいて、あと3羽がそのまわりで順番待ちをしているように取り囲んでいた。すばしっこいカラスは、オオワシがよそ見をしたスキにちゃっかり横からつついている。においを嗅ぎつけてか、トビが上空を旋回しはじめたが、すぐにカラスに追い払われてしまった。ほかのオオワシはその様子を眺めているだけ。さすが大物、トビが横取りしようとしてもまるで眼中にないようだった。「あの小さいのが追っ払ってるから」といった余裕なのか。しかししばらくすると、年上の1羽がなかなかその場を譲ろうとしない若鳥にシビレをきらしたのか、突然飛び上がって「いい加減にどけっ!」というように蹴飛ばしにかかっていた。

[1月23日]明日は大荒れになるという予報。霧多布にユキホオジロとシロフクロウがきているとの情報をきき、吹雪になる前に早速行ってみることにする。ユキホオジロがいたという場所にはもうその気配はなく、車のタイヤが雪にとられそうになり断念。岬の方へ行くと、コミミズクがフワフワ飛んでいるのが見える。港を見下ろすポイントまで歩いてみると水面は一面ハス氷で覆われている。車に戻ってふと周りを見るとコミミズクが4羽も飛んでいたので、双眼鏡を覗いていると、2羽が空中でからまって落ちるのが見えた…と同時にどこからともなくカラスの集団で押し寄せてきて、明らかに異常事態を示していた。ヨモギの枯れ枝が邪魔をして見えなかったのだが、もう1羽はコミミズクではなく、シロハヤブサだったのだ!集団ガラスは飛び上がったシロハヤブサをしつこく追い回した。白い鳥を先頭に黒い集団が連なっている状態。それが頭の上を通った時、シロハヤブサの喉が血で真っ赤に汚れているのが見えた。ついに向こうの方へ追いやられてしまい、集団もまたどこかへ散らばって静けさが戻った。しばらく余韻に浸り、ふと仕留められた方のことを思い出した。落ちた地点へ行ってみると、首のないコミミズクの死体がうつ伏せになって落ちていた。

[1月25日]きのうの吹雪で玄関の引き戸の下から雪が吹き込んでゲタ箱の脇に雪山ができていた。外の方は強風で吹き飛んでしまったようでそれほど積もってはいなかった。除雪車の落し物が駐車場の出口に残されて、でっかい氷の雪だるまと化していた。これが一番やっかい。あのシロハヤブサはどうしたかと岬の方へ行ってみる。牧草が積み上がったところにいたのはノーマルなハヤブサ。なんだか哀愁がただよっているように見えた。落ち着いた様子で羽づくろいをしているので、その様子をしばらくスケッチ。シロハヤブサは待っても現れそうになかった。捕えられたコミミズクも雪に埋まってしまい、なにもなかったような雪原が広がっていた。

[2月18日]最低気温−18℃。日中も−5℃までしか上がらなかった。流氷が霧多布沖まで流れ出しているとニュースで言っていたが、そういえば地平線に白いものが見える気がする。きのうの雪はすっかりあがって晴れ。庭中にウサギの足跡がついていた。2階から見ると歩いた道のりがわかる。途中で重なっている部分があるのは2羽来たんだろうか。こっちからきて、あっちへ行ったのね・・・指でなぞりながら描いてみた。今夜もくるだろうか?待ち伏せして見てみたい。



[2月26日]根室の白鳥台の森に行く。晴れ間は出ているものの、雪雲が居座っていてときおり細かい雪がぱらつく。風連湖はまっ白に凍り付いていて、誰かがスノーモービルで走った跡がついている。誰も歩いた形跡がなく、感で夏の道をたどっていたが歩きやすいところを行くうちに道ではないところを歩いていた。右手に春国岱が見ながらなので迷うことはないが、本当の森の中だったらコワイな、と思う。シカの道にぶつかったのでそれをたどって歩くことにした。チィチィチィ…チリリリとあちこちから小鳥の声が響いてくる。キクイタダキは何度会ってもうれしい。ここにはキバシリの姿が多く、目の前をスイッと飛んでペタッと樹の幹にとまってクルクルまわりながら登っていく。幹と同じ色をしているので、動かなければ気付かないかもしれないのに、ゼンマイ仕掛けのオモチャのようによく動く。

[3月7日]生ごみを捨てるためにコンポストのフタを開けると何かがチョロッと動いた。トガリネズミが2匹。目が悪いせいで状況がよく把握できていないらしく、そんなに慌てるわけでもなく鼻を上げてふんふんと匂いをたしかめている。土はまだ固く凍っているし、ここは天国だろう。村の自治会長の、佐藤さんの奥さんが秋に土に埋めて保存しておいたニンジンを春先に掘り起こしていると、1列につながったネズミの親子が四方八方に逃げていった。「みんなバラバラに逃げた方が早いと思うんだけどねェ」と話していたことを思い出した。ちなみに肝心のニンジンの方は、みんな皮だけでトンネルが出来ていたそうだ。最近、流し台のパイプの隙間からネズミが忍び込み納豆を食い散らかされ、フンを撒き散らされて大変なことになったのだが、ネズミ捕りを置いて引っかかっていたのもトガリネズミだった。納豆が好きだなんて!いたずらされても小さくてまん丸の姿はちょっと憎めない。でもいっぱい出てきたらやっぱり、「きゃ〜!」ってことになるんだろうなぁ・・・




[3月9日]最低気温−12.5℃。日中は4℃まで上がり、一面の雪野原に水の流れが現れはじめていた。すべてが凍り付いて時間さえ止まっていたように思えた冬の間も、雪と氷の下でちゃんと流れていたんだろう。川岸のヨモギの実を食べに、ベニヒワやウソの姿をよく見かけた。今日はゴジュウカラとハシブトガラの声がかすかに聞こえてきただけだった。昼間は日ざしに助けられて風も暖かに感じられたが、陽が傾くとさすがに寒い。本格的な春はまだ先だけど、水に映ったやわらかい西日の色が、寒々としていた風景にあたたかさを与えていた。




[4月30日]雪の心配がなくなったとはいえなくとも、長いと思っていた冬もようやく終わりの兆しが感じられると、うきうきした気分になる。それと同時に、夏から秋に移り変わるときにも似た、ちょっと淋しいような気持ちになったりもする。どんな季節でも、過ぎていくものを感じるとき、そんな感覚を覚えるのかもしれない。庭には片手に余るほどの大きなフキノトウがつぎつぎと顔を出し始めた。大きすぎてアク抜きには時間がかかる。そろそろいいだろうと取り出してみると、中まで茹っていなかったりする。アク抜きに失敗するとものすごく苦い。春の可憐な花々が咲き始めている。



[5月9日]根室の春国岱にミヤコドリの群れがいた。出会うとうれしい鳥のひとつだ。白黒赤の組み合わせは結構目立つ色合いだと思うのだけれど、そうでもないんだろうか。海風がすこし強いが、昼下がりのぽかぽかした日ざしの下でくつろいだ様子。その中に、片足で休んでいるのがいて、突然片足だけでぴょんぴょんと跳びはねて移動した。片足しかないのかと思って見ていると、つぎの瞬間、スタスタと2本足で歩いたのだった。横着なのか、しびれていたのか…



[5月30日]東京から来た友人と中標津の養老牛温泉へ。シマフクロウが見られるというので、ぜひ行きたいと思っていたのだ。釧路空港に出迎えに行き、弟子屈から摩周湖へ向かう。摩周湖は雲ひとつない快晴で、水の青さが際立っていた。「ホテル大一」に着いたのは空が薄暗くなり始めたころだった。ホテルのご主人によると昨夜は10時頃に来たというので、その頃にフクロウを待ってみた。30分くらいたったころ、ふわっと大きな翼が窓の外を横切り、ロビーの前の生け簀の止まり木にとまった。窓からの距離が近いので用意していた双眼鏡を覗くと、金色の目玉がアップになって、まるで甘露飴のようだ。シマフクロウは、しばらく生け簀の中を首をかしげながらのぞき込んでいたかと思うと、ザブンと中に入り、魚をつかんで近くの枝に飛び移った。

しばらく息をしていなかったような気がして、思わず深呼吸をした。




[6月5日]早春の頃は何の芽だかわからなかった草花も、花が咲くと「これってクロユリだったのね!」と判明し、喉に引っかかっていたものが取れたような気がしてウレシイ。草花の図鑑にはほとんど花か実しか載っていないから、気長に花が咲くのを待つしかない。おそらくその場で人に教わってもすぐ忘れてしまうような気がするので、やっぱり自分で観察した方が名前なんかも覚えられるし記憶に残りやすいようだ。「霧多布」というだけあって霧の出る日が多い。海辺の冷たい風にさらされているせいで、庭のチシマザクラの開花がまわりのどこよりも遅い。ようやく1部咲きといったところ。蜜をなめているのか、ここのところベニマシコが毎日やってきて花をつついている。ノゴマもいつも木のてっぺんにとまってさえずっている。

[7月19日]ポロト沼にアオサギの若鳥が3羽。1羽が小さい魚をくわえていて、ほかの2羽がスキを見ては横取りをはかっている。見せびらかしていないで、さっさと食べちゃえばいいのに、と見ている方はもどかしく思うのだが、見ていると「出来ればそうしたい」と思っているらしい。飲み込むためにはちゃんと魚の向きを飲み込みやすいように調えなければならず、それをしようとすると邪魔が入る。そのたびに取られないようにくわえて逃げ、「早く食べたい…」と焦っている様子が見えて、いつの間にか「早く、早く!」と力が入っている。追いかけっこをしばらく続けていたが2羽の方は諦めたようで追うのをやめた。それを感じたのか、ようやく安心したように落ち着いて魚の向きを調え、ごくりと飲み込んだ。あんなに必死に守ったのにひと呑みというのもちょっと物足りない感じもするが、本人はきっと満足だろう。

[7月28日]家の前の大きなトドマツの樹に、時たまアオサギがとまる。「ギャ−ギャ−」というかそんな声がするので窓から外をのぞくとてっぺんに危なっかしげにとまっていたりするのだが、今日は羽の色がまだ淡い若鳥が真ん中あたりの枝にとまっていた。なかなか飛び立つ気配がないのでスケッチしていると、カラスがやってきてちょっかいを出し始めた。せっかく休もうとしていたところを頭の上で騒がれて機嫌を悪くしたのだろう、ここは負けずに首をのばして追い払いにかかった。カラスというのは誰かを見つけるとイタズラせずにいられない性分なんだろうか。ようやくうるさいのを追い払ったアオサギは、さっきよりも自信に満ちた様子でゆっくりと首を体を丸めた。分厚い雲に覆われていた空から、雨が降り出した。

  
          ■浜中での日々■                                      
 
 2001年から2003年の2年間を北海道の釧路と根室の間にある、浜中町で過ごしました。
滞在中は地元出身の家主さんのご好意で一軒の家を貸していただきました。真冬は低温で電話機が動かなくなり、お風呂のお湯が朝には凍り、室内に保存している卵や野菜もすべて冷凍状態になってしまい、吹雪の日は地震かと間違うほど揺れるという、地元の人でさえ心配するような古い家でしたが、私にとっては海と空を見渡すことできるこの家のは、この上ない場所でした。
 そもそもなぜそんなことをしなければならなかったのか?とはよく聞かれる質問ですが、そのきっかけとなったのは、自然をテーマに絵を描き続けるうち、日々何となく季節が過ぎていってしまっていることを感じて、本当の自然の厳しさ、姿を知らずに都合のいい面だけしか見ていないのではないだろうか、と思い始めたことでした。
2年間をめどに決め、現在は関東に戻っていますが、ここに行き着くために手助けをしてくださった方たち、温かい地元の方たちにも本当にいろいろとお世話になり、振り返ればあっという間の2年間でしたが、私にとっては一生ものの、宝物のような日々でした。自然を描くことの意味、人と自然、そして人と人との関わりなど、いろいろなことについて考え、考えさせられた時期でもありました。 そして、自然に対する揺るぎない尊敬の気持ち…言葉にすると何となく軽々しくなってしまいますが、そんなものが植えつけられたような気がしています。
 この頃は自分のホームページを持つなど別世界の話、と思っていたので、ここで改めてすべてを書き起こすことは大仕事になってしまいます…ので、生きものたちの観察記の一部を少しだけ、ご紹介したいと思います。

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