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編集:大田拓、更新:2018 年 9 月 1 日

水彩画について考えてきたこと(1)


1.水彩画のセオリー

水彩画を勉強し始めて 6 年になります。
この間、2、3の水彩画教室に通い、その後、著名な二人の先生の教室で短期間習い、また手当たり次第、水彩画の教本を読んできました。
そして、水彩画について考えながら、実践してきました。

水彩画を上手く描く(または描けるようになる)ためのセオリー(理論)はあるのでしょうか。
セオリーを科学の定理のような意味で捉えるなら、それはありません。
優れた芸術作品をセオリーに基づいて制作できるのであれば、誰も苦労しません。

しかし工学を学び、長年モノづくりの世界で生きてきた僕にとって 「その方法よりはこの方法の方が良い」といった意味でのセオリーならあります。
こうしたセオリー(=改善)の積み重ねによって、上手く描けるようになるのではないかと、僕は考えています。このカラムではこれについて書きます。
なお、以下の内容は僕が一人で考えたことではなく、水彩画教室の先生から聞いた言葉やこれまで読んだ本(特に、Milind Mulick, Ron Ranson など)の内容を僕なりに咀嚼して、僕の考えも加味して、組み立て直したものです。

2.線を使うかどうか

水彩画の特徴は、表現の幅が広いことです。
水彩画は線を使うかどうかで、進む道が大きく分かれます。
ただし、どちらを進むかは好みの問題であり、良い悪いの話ではありません。

線を使う描き方では、重ね塗りをしないで済む、または重ね塗りの回数が少なくて済むため、水彩画特有の色の鮮やかさを維持しやすいメリットがあります。
この分野の代表には「ペン採画」があり、ご承知のように、あっさりした心地良い絵が出来上がります。

一方、線を使わず物体を面で捉えて表現し、油絵のような厚みのある表現を好む人たちもいます。
この分野の代表的な水彩画家には、永山裕子さん、王軍先生、笠井先生などがいます。僕はこの描き方を目指しています。
線を使わない表現では重ね塗り回数が増える傾向があり、このため、重ね塗りをしても色が濁らない描き方に習熟する必要があります。

この中間的な位置に、線を使わず重ね塗りもしない、いわゆる「淡採画」を描く人もいますが、少数派です。
なお、線を使い、かつ厚塗りをする人を時々見ますが、この種の絵で心地良いものを見たことはあまりありません。
この点で、水彩画を描く人は「線を使うかどうか」を明確に意識した方が良いと思います。

3.何をどう描くか

水彩画に限らず、何をどうように描くかが最も重要です。
まず、風景にしろ静物にしろ、対象物に対する「感動」が必要です。「この美しさを表現したい」と心から感動したものを絵の対象にします。
僕はこの点で、絵は現場で描くものだと考えています。自然の美しさには、風に揺れてきらきら光る樹木や海の波など、現場でしか感じられないものが多いからです。写真は風景を写すことはできても感動を記録することはできません。
そして描く対象が決まったら、すぐに描かないで、自分が感じた感動はどこから来るのかじっくり観察し、目の前のコンポーネントを取捨選択する必要があります。
見たとおりに描く必要はありません。

コンポーネントの取捨選択が終わったら、次に、「アトラクション・ポイント」を何にするか決めます。アトラクション・ポイントとは、絵を見る人の目を引き付けるもので、スーパーの目玉商品に相当します。アトラクション・ポイントは形あるものだけとは限りません。ハッとするような色遣いでも、雲や海のダイナミックな流れでもアトラクション・ポイントになります。

そして、本画を描く前に、A4サイズ(もう少し小さくてもよい)のスケッチブックにラフに線画きして構図を決めていきます。 縦書きがよいか、横書きが良いか、目玉商品をどこに置くか、検討します。一般に、この目玉商品は絵の中心に置かず、少し(またはかなり)ずらした方が良いようです(1/3ルールとも呼ばれます)。
さらに、単なる構図の検討で終わらず、明るい部分や暗い部分を描き込みます。 またこの時に、印象的な影があれば、それを描き込んでおきます。
A4サイズの紙に明暗を付けてラフスケッチするプロセスは、イメージ・トレーニングにもなります。



しかし実際には、常に感動する場面に出会えるとは限りません。こういう場合は、「何でもない風景の中に美しさが隠れている(Milind Mulick の言葉)」「自分が気付いていないだけだ」と考え直して、さまざまな角度から風景を見直すと、面白い絵が描けることがあります。
初めて行った時は良い絵が描けなかったのに、同じ場所に何度も行くうちに良い絵が描けるようになることがよくありますが、これは現場を繰り返し見ることによりその風景の中に隠れている美しさに気付くからでしょう。

4.省略と強調

絵は見たとおりに描く必要はありません。また、凡人には「見たとおりに描く」ことはできません。自分が描きたいと思う感動を表現するために、不要なコンポーネントを省き、見る人を引き付けるものを強調します。
この「省略と強調という言葉は、昔、クラブツーリズムのスケッチ旅行で、講師の「崔(チェ)」先生から聞いた言葉です。チェ・ウンギョン先生は韓国人の女性水彩画家で、あっさりした絵が特徴です。その後お目にかかる機会はありませんが、名言をいくつか聞かせてもらいました。
チェ先生から聞いたもう一つの名言は「心のシャッターを押しなさい」です。
風景画の場合、時間とともに影が変わっていきます。そこで、良い場面での明暗や影の形を記憶しておいて、それに基づいて描け、ということですが、僕の場合はそこまで記憶力が良くないので、A4スケッチの段階で明暗や影を描き留めるようにしています。

頭の中でもやもやしているものを適格な言葉でスパッと表現されると、それだけで理解が進むことがよくあります。
絵の描き方においても、対症療法的な説明ではなく、本質を適格な言葉で説明することが重要です。
(2018-9-1)



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