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編集:太田拓、更新:2009年10月1日

(1) 英日翻訳の決め手は日本語力

1.フリーランス翻訳者に応募する

インターネットで「英語翻訳者 在宅 募集」のキーワードで検索すれば、あるはあるは、フリーランス翻訳者を募集している会社がたくさん見つかる。その一つをクリックしてみると、詳しい募集の内容を知ることができる。翻訳と一口に言うが、実に様々な分野がある。金融・経済、法律、特許、産業その他など分野は実に広い。産業翻訳にも、機械、電気、エネルギー、通信、IT、化学、生物、医療など範囲は広いし、専門が異なると全く歯がたたないこともある。無理をせず、自分の強みを発揮できる分野の取引が多い会社を選ぶのが賢明である。

応募資格にはTOIECが何点以上とか、翻訳歴何年以上とか、Tradosが使えること、などいろいろある。native並みの英語力が要求されることもあるし、「未経験者も可」というのもたまにはある。
その他の応募条件として、高速のブロードバンド接続環境が指定されることもある。これは実際に翻訳の仕事を請け負うことになると大量のデータの送受信が必要になるからである。

応募する会社を決めたらフリーランス翻訳者の応募をする。どこの会社でも履歴書や職務経歴書を電子メールで送るように書いてあるので、タイトルに「フリーランス翻訳者に応募します」と書いて、履歴書・職務経歴書を電子メールで送付する。書類審査で合格すると数日後にメールが届く。そして、添付ファイルとしてトライアル文(試験問題)がついている。トライアル文は通常はA4サイズで1、2枚程度のものである。

2.トライアルを受けて合格する

トライアルは無償だが、これは止むを得ないので文句を言わずに解答を作る。そして電子メールで「トライアル結果を送付します」と書いて送り返す。トライアルの審査結果が届くまでには1、2ヶ月ほどかかる。A4サイズ1、2枚程度の審査にどうして2ヶ月かかるのか不思議だが、それだけ応募者が多いということである。特に英日翻訳ではフリーランス翻訳者は掃いて捨てるほどいるらしいので、翻訳会社側は特に困っていないということである。完全に買い手市場である。

トライアルに合格した後、正式な守秘義務契約を結んでから発注してくれる会社、単に「合格しましたから、当社のフリーランス翻訳者として登録しました」との連絡だけでその後まったく音沙汰のない会社、合格通知もないままに「今週末までにやってくれ」と電話してくる会社など、いろいろあって面白い。
トライアルに合格してすぐに仕事がくればよいのだが、実はそんなに簡単にはいかない。何でもそうだが、その道10年以上の人たちがしのぎを削っている世界に、多少英語の心得がある程度で新規参入ができるほど、この世界は甘くない。
特に大手の翻訳会社では500人程度のフリーランス翻訳者をかかえているところもあるそうだから、そういう会社1社とだけ契約しても1年に1度仕事が来ればよい方である。だからできればあまり大きくない翻訳会社を選び、少なくとも10社くらいと契約できるよう努力する。

4.トライアルに合格しない理由

僕のケースでは2009年の6月から8月末までの3ヶ月間で10社以上に応募し、ようやく7社に合格したが、完全に負け越しである。この数ヶ月間の経験では、自分の専門から離れるほど不合格になる確率が高い。応募の際に「得意な分野」を指定しても、よく知らない領域の試験問題がでることもしばしばある。そういう場合、インターネットで用語を調査した程度の予備知識で翻訳してもまず合格しない。 間口を狭くしすぎると合格率は高くなるが、仕事が少ない。間口を広くすると合格しにくい、という難しさがある。

完璧だと思って提出したトライアルが不合格になるケースもしばしばある。それなら模範解答を見せてくれよ、と言いたくなるようなことも1度や2度ではない。一般には不合格の理由は開示されないので、不合格が続くと気分が滅入るのだが、最近、ようやくその理由が分かってきた。その理由を一言で言えば、(英文和訳の場合)日本語文書に問題があることである。
言うまでもなく、英文和訳では翻訳した日本語文書がお客様に納める「商品」である。英文の意味が正しく翻訳されているのは当然のことで、翻訳がいくら正しくとも日本語文書として問題があれば、これは欠陥商品であるから「売れない」のである。

以下は実際にあった話で、翻訳とは何かを考えるヒントになるので紹介する。
日本で生まれて小学校を卒業してからアメリカに移住したある日本人男性が、日英翻訳者を目指して日本の翻訳会社のトライアルをいくつも受けた。彼はアメリカで20年以上生活しているから英語、日本語ともペラペラである。ところが、受けた翻訳会社全部、不合格になったらしい。「英語・日本語ペラペラの俺が、どうして不合格になるんだ」と本人はずいぶん困惑したらしい。彼が不合格になった真の理由は分からないが、僕が推測するところは、多分、日本語の能力が小学校レベルしかなかったところにあるのではなかろうか。

僕の場合は、流石に日本語能力が小学校レベルということではない。しかし「翻訳に間違いがない」という意味では完璧であっても、日本語文書として完璧であったかどうかということになると怪しい。日本語文書として完璧であるとは、
・ 誤字脱字がない
・ 自然で読みやすい日本語になっている
・ その文書の読み手に合わせた文書になっている
・ 文書の体裁が、クライアントに提出できるレベルのもの
など様々な要件を満たしていることだが、まあ一口で言えば日本語で書かれたどこに出しても恥ずかしくない文書ということになる。
つまり英日翻訳では、英語力+日本語力の総合力がものを言うのである。
このあたりの微妙なところは、例えば宮脇孝雄さんの「翻訳の基本」を読むと良くわかる。翻訳家とは、前後の文脈との関係や英文の書かれた状況を考えながら、どの日本語を当てはめるのがベストか、といったことに始終頭を悩まさねばならない商売で、「日本語が話せます、書けます」という程度では論外なのである。僕は日本人として生まれて60年以上経つが、あらためて英日翻訳は奥が深いと感じている。 (以下次号)



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