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「毎日が金曜日」
編集:太田拓、更新:2017年1月20日


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AI と自動翻訳

1.囲碁・将棋ソフト

数年前からAI (人口知能)という用語が話題に上るようになってきました。特に昨年は将棋や囲碁の世界で、名人級を連覇するソフトが出現して大きな話題になりました。
AI は約20年前にもありました。しかし当時のものは、熟練作業者の仕事の仕方を詳しく分析して、「こういう場合はこうする」というように、さまざまな状況での条件とそれに対する対応を整理してコンピューターに記憶させておき、その知見を実際の作業に適用する、というような性質のものでした。
このため、定義した条件が少し異なったり、定義されていなかったりするともうお手上げで、ほとんど実用化されずに終わりました。

しかし、今回のAI は従来のAI とは全く異なるもので、深層学習(Deep Learning)という、コンピューターが自分で学習する機能を持っているようです。 このため将棋や囲碁の過去の膨大な棋譜を学習しており、それに基づいて「次の一手」を決定するようです。将棋や囲碁の世界で活躍している人たちは、皆幼少より「神童」と呼ばれた人たちばかりですから、当然過去の膨大な棋譜を研究済みですが、深層学習機能によるデータの蓄積は人間の能力をはるかに超えるものだそうです。
20年前の AI と今回の AI とのもう一つの大きな違いとして、ハードウェアの急速な進歩にも着目する必要があります。20年前と言えば、Windows 2000 や ME などの時代で、あの時代と比べると CPU の処理速度はおそらく10倍以上(または100倍以上?)に上がっています。 それに対して人間の方は、思考方法が変わることはあっても、脳の処理速度は100年前とあまりかわりません。

そこで、僕は、将棋や囲碁のソフトと人間の対局に関して、少し検討の余地があるように思います。
コンピューターの処理速度は人間の処理速度をはるかに超えるものに進化しています。また並列計算といって、数百台のコンピューターが連携して高速処理するようなこともあります。これほどの処理速度の違いを無視して、人間とソフトの持ち時間を同じにして勝負するのは不公平でしょう。人間とソフトは、処理速度ではなく思考で勝負すべきです。
具体的には、ソフトを実行するPCとして2000年頃のものを使用するとか、処理速度が進歩した分だけ、ソフト側の持ち時間を1/10(または1/100)に短縮するとか、などの条件で対局したらどうでしょうか。
ソフト側が使えるリソースに制限を加え、人間と同程度の処理速度やメモリー量に制限することにより、条件が「対等」に近づき、一層面白くなるはずです。

この種の深層学習機能を持つ AI が普及したら、人間が仕事を奪われるのではないかという心配をする人もいるようです。それで、今回は AI によって、翻訳(特に英文和訳)がどのよう変化するかについて考えてみましょう。

2.車の自動運転

AI の応用分野として期待されているのが、車の自動運転で、トヨタ、ホンダなどの各メーカーは自動運転の研究を加速させているようです。

自動運転が実用化されれば「運転する楽しみ」がなくなってしまうと心配する人もいますが、高齢者の多い過疎地での移動手段として有効ですし、また都市部でも事故を減らせることが期待できるので、メリットも大きいことは確かです。しかし、果たしてどこまで実用化できるでしょうか。
自動運転の目的は、「事故を起こさずに出発地から目的地に車を移動させる」ことです。このように目的は明確ですが、条件判断が多岐にわたり、無人の道路を単独で走るのとは条件がまったく異なります。
車の前後左右に搭載したカメラやレーダーの信号を判定して、他の車や歩行者を識別し、 衝突しそうになったら回避する、停止する、または急ハンドルを切って車線を変更する、前の車を追い越すなど、膨大なデータを瞬時に判断する必要があります。
車線変更にしても、最近実用化されつつあるものは道路の白線がはっきり識別できることを前提にしているはずですが、老朽化した道路では白線が消えかかっている場合もあります。 また雨の日の夜などは、濡れた路面に赤信号とネオンサインが混じって映る場合もあります。 こういう複雑な状況で、前後左右の物体の動きを、正確にかつ瞬時に認識させるのは容易なことではないでしょう。
車の自動運転の場合は、AI による処理の問題よりも、ハードウェアの処理速度(画像処理も含めて)の向上が難しい課題かもしれません。

3.Google 自動翻訳

Google に自動翻訳機能があるので、試してみました。
Google の検索窓に「英文和訳」と入力すると、その直下に 2 つのボックスが表示されます。そして左側の窓に英文を入力すると、右側の窓に対応する和訳が瞬時に表示されます。
それで、試しにいろいろな英文を入力してみました。
(1)「Please enter a text.」に対するGoogle 訳は「テキストを入力してください。」で、これは正解です。
(2)「I live in Yokohama city.」に対するGoogle 訳は「私は横浜市に住んでいます。」で、これも正解です。
(3)次に少し難しい「A Word or Two...」を入力すると、Google 訳は「1 つの単語または 2 つ...」となります。
これは、字句通りの訳として間違いではありませんが、このフレーズが MIlind Mulick 著「Watercolor」の序文のタイトルであることを考慮すると、正解とは言えません。
僕の訳は「一言または二言...」です。
(4)「For almost everyone a landscape in watercolor is a joy to see.」を入力してみます。
これも「Watercolor」の序文の一部ですが、これに対する Google 訳は
「ほぼすべての人にとって、水彩画の風景は見ることの楽しさです。」となります。
これは正解に近いのですが、日本語としてはやや不自然です。
僕の訳は「誰にとっても水彩の風景画を見るのは楽しいものです。」
(5)最後に「This, to my mind, is due to the freshness and spontaneity that watercolors exude.」を入力してみます。
これも「Watercolor」の序文の一部ですが、これに対する Google 訳は
「これは、私の心に、水彩画が滲出する新鮮さと自発性によるものです。」となります。この訳は、日本語として不自然で、意味が通じません。
僕の訳は「これは水彩画の鮮やかさと自然発生的な性質に依っていると、私は考えています。」です。

(2)のように構文がはっきりしている文章の場合はほぼ使える(=翻訳者が不要)レベルです。その他の文章についても試してみたのですが、総じて良くできています。
これに対して例題(3)〜(5)はやや難しい英文ですが、全くダメというレベルではありません。
例題(3)〜(5)は、Google 翻訳をこき下ろすために紹介したわけではありません。
省略語が多いケースや、複雑な構文の場合、文脈を考慮する必要があるようなケースではまだ物足りないのですが、それでも校正者がチェックして直せば使えるレベルに来ています。少なくともゼロから翻訳するよりは楽です。

数年前に、自動翻訳されている文節を含む翻訳の仕事をしたことがあります。自動翻訳されている部分は一致率=80%とカウントされる(その分、料金が安い)のですが、実態は一致率=0%と変わりませんでした。自動翻訳された個所を手直しするよりも、ゼロから翻訳する方が楽なため、僕は自動翻訳された内容を無視して仕事をした覚えがあります。
しかし、今回試してみた Google 自動翻訳はかなり進んでいます。
一般に「産業翻訳」と呼ばれる分野の英文は丁寧に書かれた文章が多いため、自動翻訳を適用しやすいでしょう。今後、AIの進化により自動翻訳がどこまで進むか分かりませんが、少なくとも文芸書のような難しいものを除けば、翻訳者がいらなくなる日はそう遠くないように思います。
(2017-1-20)



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