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「毎日が金曜日」
編集:太田拓、更新:2017年6月7日


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海辺のマンチェスター?

1.マンチェスター・バイ・ザ・シー

5 月 10 日の朝日新聞夕刊に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」という洋画の一面広告が載っていました。
原題は「Manchester By The Sea」、
またカタカナ題名か、なぜ「海辺のマンチェスター」ではいけないのか、
と思いながら、小さな囲み記事のストーリーを読んでみました。そして、おやっ、と思いました。
それは、 「(主人公は)故郷であるマンチェスター・バイ・ザ・シーに向かう・・・・」 と書かれているからです。
この記事に間違いがなければ、Manchester By The Sea は「海辺のマンチェスター」ではなく、「Manchester By The Sea」でひとつの地名ということになります。
そんなことってあるのかな、と疑問が膨らんできます。

マンチェスターと言えば、何と言っても、イギリスの都市名でしょう。
それで、イギリスの地図を調べてみたのですが、大西洋に面したところに港町リバプールがあり、リバプールから東に約 50km 離れたところにマンチェスターがあります。常識的に考えて 50km も離れていれば「海辺の」とは言えません。どうもおかしいな、と思いました。
これはやはり、僕の知らない都市名かもしれないと思い直し、Google で調べてみました。

Google の検索窓に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」と入力するだけでは、調べたい都市のことは出てきません。この映画のことが出てくるだけです。
それで、 「Where is Manchester By The Sea」と入力してみると、見つかりました。
ここは、アメリカのマサチューセッツ州にある人口 5000 人ほどの小さな町で、「Manchester-By-The-Sea」がこの町の正式な名前だそうです。なぜこんな紛らわしい名前にしたのか詳細はわかりませんが、イギリスから移住した人々がこの町に住み着いて町の名前を決める際に、やはり故郷のマンチェスターが忘れられなかったのでしょう。
いずれにしても、これで僕の疑問は氷解しました。

2.洋画の邦題

最近の洋画の邦題ですが、原題をカタカナに置き換えただけのものが多いようです。
「アナと雪の女王」のような例外もありますが(この原題は「FROZEN」)、ほとんどの洋画がカタカナ題名になっています。なぜ、美しい日本語訳を当てはめないで、原題をそのままカタカナにするのでしょうか。

それで洋画の邦題をどのようにして決めているのか、いろいろネットで調べてみたのですが、はっきり書いた記事は見つかりませんが、 どうも、映画の制作会社や配給会社が「日本語名を付けるな」と指示するケースが多く、それで、やむを得ずカタカナ題名になっているようです。
この原因として、過去に、日本語訳の題名が正しく映画のストーリーを表現していない(つまり誤訳)ケースがあったからだそうです。

僕はそれほどの映画通ではありませんが、カタカナ以外に考えられないという映画もあるのは事実です。たとえば、
・Back To The Future(バック・ツ・ザ・フューチャー):これは「未来に戻れ」では、あの映画の面白さ、斬新さを表現できません。
・Sound Of Music(サウンド・オブ・ミュージック):この映画は高校時代に見たのですが、アルプスの美しい風景と、美しいハーモニーに感動しました。当時の僕の英語力では「音楽の音」のような日本語タイトルしか思い浮かばなかったのですが、これでは平凡過ぎて、あの名作が可哀そうです。じゃあ、今なら名訳を付けられるかと聞かれれば、やはり無理です。
「Sound Of Music」を「音楽の音」という日本語に置き換えて、変な日本語だと感じるのは、Sound や Music という単語の、英語特有の広範な意味を理解していないからでしょう。

3.北北西に進路を取れ

洋画の邦題が原題を正確に表していない例としては「北北西に進路を取れ」があります。
これは 1959 年のヒッチコック監督の映画で、原題は「North By North West」です。北北西は英語で「North-NorthWest」で、原題には「By」が入っています。ヒッチコック自身も「North By North West」という方位は存在しないといっているそうです。
僕はこの映画を数年前に BS で見たのですが、「北北西に進路を取れ」の意味がさっぱりわかりませんでした。この題名に関しては「ノースウェスト航空で北へ」とういう解釈もあり、この題名なら理解できます。
しかし、「北北西に進路を取れ」のタイトルに惹かれて一度見てみたい、と思ったのは事実です。「ノースウェスト航空で北へ」というタイトルなら平凡で、見たいとは思わないでしょう。

洋画のタイトルを和訳するのは、字幕翻訳者かどうかはわかりませんが、英語に詳しい人たちが担当しているはずですから、「North By North West」を「North-NorthWest」と間違えて訳することはちょっと考えられません。
興行収入を高めるために、意図的に人々の関心を惹くような題名にしたと考えるのが自然です。

原題と日本語訳が違うからと言って、誤訳だ、誤訳だと騒ぎ立てないで、どちらが聴衆の関心を惹くか、という観点から眺める方が、おおらかで面白いかもしれません。
そういう意味からは、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」ではなく「海辺のマンチェスター」の方がよかったのではないでしょうか。
「あれ、マンチェスターは海辺にあったかな?」と疑問を持たせるだけで十分効果があるのですから。
(2017-6-7)



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