trados
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編集:太田拓、更新:2011年2月25日

(3)翻訳業1年目のまとめ

1.翻訳作業の環境

2009 年の 8 月からフリーの翻訳業を始め、11 月からぽつぽつ仕事が来はじめた。その後一時暇なときもあったが、ほぼ順調に推移して、2010 年は平均して一月に20日程度の仕事があり、Trados 関係の初期投資は直ぐに回収した。1年間で翻訳したワード数は30万語程度で、1年目にしてはよくできた方である。一般に50万語翻訳すると一人前と言われているが、この理由は50万語翻訳すると大抵の構文や用語を経験するので、翻訳に際して悩むことはあまりなくなるからであろう。僕もあと一息である。

数年前に買ったWindows XP で仕事をしていたが、翻訳しながら複数のファイルを開くとTrados の操作が重く感じられるようになった。そこでSDL 社に問い合わせ、RAM 容量が小さいことが原因と分かったので、RAM を 500 MB から1 GB に増設した。この結果、操作は軽快になり、Trados で大容量TMを開き、辞書ソフトや PDF ファイルを開きながらネット検索するようなことをしてもストレスを感じるようなことはなくなった。
翻訳を生業とするためには、Windows XP 1台だけでは不安なため、Windows XP Pro 版をもう一台購入した。今度のものは最初から RAM サイズ 2GB で注文した。Windows ME 以前のOSでは不安定で、翻訳のように大量の文書を処理するには不安がある。Windows XP ではTrados、Word、辞書など複数のソフトを起動していてもフリーズするようなことはほとんどない。また翻訳支援ソフトのほとんどは Windows XP 以上のOSでないと動作しない。

これから翻訳業を始めようと考えている人に重要なアドバイスを1つ。Trados の場合は問題ないが、翻訳ソフトの中には「自動更新」機能があるものがあり、定期的にソフトが機能アップされる。そして多くの場合、自動更新はそのソフトが Administrator 直下で使われている前提で行われることが多い。だから、仮に Admin 権限があっても Admin 以外のユーザーでソフトを使っていると自動更新が上手くいかずに困ることがある。このために、翻訳用のPCは自分専用として、ユーザーの複数設定はせずに、Adminstrator 一人で使うようにするのが賢明。なお、Windows XP Pro 版の場合は、「ようこそ画面」の段階で「Ctrl+Alt+Del」キーを2回押すと「Administrator」でPCを起動できるので、ユーザーを複数設定してしまっても問題ない。

2.リモートTM

仕事の大半は Trados だが、翻訳会社から Trados 以外のソフトも使用するよう要請があり2本買った。1つは Translation Workspace、もう1つは WordFast である。両方とも操作方法は Trados と類似しており、Trados が使える人なら直ぐに使えるようになる。前者は月額約千円、後者は3年間のライセンス料が約4万円で、Trados に比べると相当安い。

Translation Workspace と WordFast の特徴は、リモート TM を使うことである。Trados の場合は、TMは翻訳会社から送られたものを自分のPCに入れて、ローカルTMとして使う。これに対して、Translation Workspace や WordFast の場合は、ソフト販売会社のサーバーにTMがあり、翻訳者はインターネット経由でそれにアクセスしながら翻訳作業を進めていく。1つのドキュメントを一人だけで翻訳する場合にはリモートTMのメリットは全くないが、複数の翻訳者がチームを組んで、1つのドキュメントを分担しながら翻訳する場合になるとリモートTMが威力を発揮する。TMがリアルタイムで更新されていくから、翻訳者同士で(結果的に)助け合うことができる。また未定義の専門用語などもだれか一人の訳を皆が踏襲していくから、統一されやすい。その反面、間違った訳文をTMに入れてしまうとそれが仲間に伝染してしまう、という危険性はある。リモートで使っていても応答速度面ではローカルTMの場合とほとんど変わらない。これはPCの処理速度や、RAM サイズなどにも影響されるようで、古いPCでは遅くてだめらしい。

またリモートTMの場合は、翻訳会社やクライアントが用語集をリモートサーバーに用意してくれるので、MuliTerm のようにエクセルから読み込んで自分で準備する必要がない。使い方は Trados の MultiTerm とほぼ同じで、原文中に定義済みの用語があると、そこに下線が引かれて自動的に「この用語は定義済み」であることが分かるようになっている。 このようなリモートTMのメリットや、Trados の価格の高さなどから、翻訳業界ではTrados 離れが進んでいるらしい。Trados の方はすでに 2009 年バージョンに移行したが、2007年バージョンとの違いが大きすぎかつその割にメリットが感じられないため、現実の翻訳作業では 2009 バージョンを指定されたことは一度もない。未だに 2007 バージョンのままである。

3.マニュアル翻訳の難しさと面白さ

翻訳の仕事には英語力とその分野の専門知識が必要である。僕の場合、仕事の大半はソフトウェアのマニュアルの翻訳だが、1年やってみて未だに難しいと感じることがある。一般にハードウェアの場合は、自分がその装置を使っていなくとも過去の経験から装置の内部で何をしているか、大体想像がつくので、翻訳で困ることはまずない。

しかし、ソフトウェアというものは想像力の産物で、想像力の優れた人の手にかかれば原理的には何でもできるから、時には僕の経験の範囲をはるかに超えているものもある。また大規模なマニュアルの場合はチーム作業で翻訳をすることが多く、全体を知らずに一部だけを読んで翻訳せざるをえない面がある。あれやこれやの理由で、その英文が何を指しているのかさっぱり見当がつかない場合がある。こういう場合は苦しいが、これは英語力の問題でないから、悲観するにはあたらない。そういう宿命だと諦めるより他はない。

もう1つはタグ処理の問題である。マニュアルの中には1つのドキュメントで「Windows 版」と「UNIX 版」のように複数のバージョンに対応する翻訳を行う場合がある。このようなドキュメントでは、1つの文節に主語と動詞が 2 つずつあり、タグで区別してDTPの段階でバージョンを切り替える仕組みになっている。つまり、
S1,S2+ V1,V2 の構文を S1+V1 と S2+V2 の構文に切り替える。
こういう文節に初めて遭遇するとどう翻訳してよいか分からず立ち往生するのだが、こういうものも要は経験で、数をこなせば次第に慣れる。

一方、面白さもある。翻訳対象は常に最新のソフトウェアだから、これまでなかった機能が盛り込まれているのは当然だが、「へえ、こんなことまでできるのか」と驚きながら翻訳することも少なくない。ほとんどがアメリカ製のソフトウェアであり、日本人はハードウェアの開発には強いが、ソフトウェアの開発力は低い、という世評は本当らしい。最新の知識が学べる、というのも翻訳の面白さである。 (以下次号)



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