原告準備書面 (1)


               原告訴訟代理人 弁護士 徳井 義幸
                              同    奥野 京子

第一 被告会社主張の原告の運転士としての適格性について

 1、適格性の問題は、本件「他職運用」の理由ではない。
(1)被告会社は、本件業務命令「他職運用」の理由として、原告の運転士としての適格性を見
極めるためであったとの理由を上げている。
 しかし、以下に述べる如く、原告の運転士としての適格性は「他職運用」の理由ではあり得な
いものである。
まず、被告会社は、平成14年11月22日、山中課長、高橋係長の両名立会の下に原告に対し
本件「他職運用」の業務命令を発令したが、発令に際し、原告が発令の理由を問い質したとこ
ろ、本件訴訟で主張しているような原告の運転士としての適格性など一切取り上げていない。
山中課長が述べている本件発令理由は、いわゆる怪文書が原告の作成のものである疑惑が
あり、その調査のため、また、疑惑により、原告が精神的に動揺しているためというのみであ
る。原告は、その理由に納得できず、怪文書際基なるものは全くのぬれぎぬであり、何らの精
神的動揺もない旨申し述べているところである。山中課長は、原告と議論するつもりはない、
業務命令であると一方的に発令を告知している。
 この山中課長による本件業務命令の告知やりとりについては、それを撮影、録音したビデオ
テープが存在し、原告はこれを証拠として提出するが、このビデオテープを見れば、業務命令
告知のやりとりは前記の通りであることが明らかである。

(2)また原告が、被告会社内に在する阪急電鉄労働組合に確認したところでは、「他職運用」
という用語での労働協約等の取り決めは存在しないが、被告会社より原告について駅勤務を
命じる旨の業務命令の発動につき申し入れがあり、その発令の理由が怪文書の調査のため
とのことであったので、怪文書問題についての調査結果に問題がなければ直ちに運転業務に
復帰させることを前提に、組合としてこれを了承したとのことであった。
 また、阪急電鉄労働組合としては、懲罰的な他職運用、勤務態度を理由とする多職運用に
同意することはないとのこであった。

(3)以上のことから明らかな如く、本件業務命令の発動の理由の1つが、原告の運転士として
の適格性の問題であるというのは、本件訴訟になって主張され始めたものに過ぎないことが明
らかである。

 2、被告会社の原告の運転士としての適格性の主張について

 前記のとうり、本件業務命令の理由は原告の運転士としての適格性の問題ではないことが
明らかであるが、その主張する適格性の問題についても以下の通り反論しておく。

(1)被告会社は、原告の運転士としての勤務上の問題点なるものを指摘し、その一つとして、
原告が髭を生やしたままで運転業務に従事していたことを取り上げている。
 すなわち、被告会社準備書面での髭を生やしたまま運転業務に従事したことを問題とするも
のである。
まず、前提として被告会社の主張する一部には、原告が不精髭を生やしていたとの記載の部
分があるが、これは事実に反する。原告は髭を生やして勤務に従事していたが、その髭は不
精に伴うものではなく、通常のスタイルの一つとしての髭である。
 そのことを前提として、以下原告の主張を記する。

@被告会社は、服務規律を根拠として、原告の髭を生やしたままでの運転業務への従事を問
題視するものの如くである。しかしながら、このような服務規律による労働者のプライバシー、
人格の自由に対する制限に対しては、慎重な配慮が要請されることであることを言うまでもな
く、企業秩序による規制も労働者の人格、自由に対する行き過ぎた支配、拘束となるものは許
されないものであることは言うまでもない。
すなわち、原告は運転士という業務に従事しており、髭を生やして運転業務に従事すること自
身は、原告の被告会社に対する運転業務の提供あるいはその労務の質になんら関わらない
ことであり、基本的に原告の人格の自由、プライバシーの領域に属することであり、被告会社
が服務規律によりこれを制限、支配すべき領域外のことと言わなければならない。
被告会社は、原告が髭を伸ばして出勤してきたことをとらえ、「公共交通機関において、人命を
預かるという重責に就く乗務員の整容が乱れては利用客に安全面における不快感を与える原
因となるばかりではなく、ひいては管理体制などに会社に対する信頼を著しく損なう原因とな
る。」と主張する。
このような、抽象的な企業秩序によって、労働者の人格の自由、プライバシーが制限、支配さ
れることになれば、原告と被告会社間の労働契約関係によって、原告はその私生活上の重大
な制約を受けることになり、到底許されない論理と言わなければばなない。
労働契約に基づく労務の提供とそれを維持するための必要最小限の範囲において、労働者
の人格の自由、プライバシーが制限されることは言うまでもないが、被告会社の前記主張は労
働者の人格の自由、プライバシーに対する考慮、配慮を全く欠き、労働協約に基づき、あたか
も被告会社が原告の全人格、全私生活上の自由を制約、支配することができるとする暴論と
言わなければならない。原告が髭を生やして運転業務に従事していたとしても、運転士として
の適格性に問題があったとする被告の主張は、結局原告の具体的な労務提供とかけはなれ、
被告への一方的全人格忠誠を求めるもので、それを「利用客に安全面における不安感を与え
る。」「会社に対する信頼を著しく損なう」などと、あたかも利用者の要望であるかの如く抽象的
に理由付けしたものにすぎない。

Aしかも、この問題については、平成9年5月、被告による執拗な干渉に原告が労働組合を通
じて抗議をして、被告は労働組合を通じて原告に謝罪している。
 ちなみに、準備書面に平成9年5月18日「正雀休憩所にて厳しく指導」とあるが、原告は当
時桂乗務区所属であり、正雀休憩所に居ることはありえない。    

(2)スニーカーについて。
 @事実はいずれも原告は不知。

 A原告が履いていたのはスニーカーではなく運動靴であり、当時も今も他の乗務員は履いて
いる。原告は「白はダメ」とのことだったので黒の運動靴を履いていた。他の乗務員にも黒の
運動靴をはいているが、被告の注意のしかたは、若手の乗務員には「黒もダメ」と言うが、ベテ
ランの乗務員には何も言わないなど、非常に恣意的である。
 なお、原告は駅勤務を命じられた後、白いスニーカーを履いたことはない。

(3)バックカーテンについて。
 @事実はいずれも原告は不知。

 Aバックカーテンの取り扱いは運転士の判断であり、雨天時の薄暗い時は使用するのが通
常である。原告は晴天時に使用したことはなく、いずれも雨天時であり。使用しないと車内蛍光
灯が運転台全面ガラスに反射して前方が見えにくくなり、かえって危険である。

(4)指差換呼について。
 @事実はいずれも原告は不知。

 A指差換呼が導入されるまでは、安全上、絶対運転ハンドルから手を離してはならないと、
指導されていた。
導入時の会社の説明では、「時期、方法は運転士の判断で、どちらの手、指を使ってもいい」
とのことであり、組合からも「ハンドルをもったまま小指を立てるだけでもいい」との説明があっ
た。原告は、これらの説明に基づき指差換呼をおこなっていた。
 しかし、被告から「左手、人差し指で大きく」と指導があり、原告は「時期、方法は運転士の判
断だったのではないか」と質問したが、明確な回答はなかった。
被告の言うとうり換呼すると、ブレーキハンドルから完全に手を離すことになり、緊急事態に対
応できなくなる可能性がある。

(5)その他
事実はいずれも原告は不知。

(6)原告は表裏のある勤務態度をとってない事。

原告は、添乗指導時とそれ以外で勤務態度を変えたことはなく、常に運転士としての輸送の安
全を考えながら業務を行っていた。むしろ、被告の指導に不合理な点や、同じことでも相手に
よって恣意的な点が見られる。

(7)停止位置誤りについて。

 @被告は、平成14年10月25日の原告の停止位置誤りについてあたかもその原因が「原告
の基本動作の不徹底とそれに対する指導への反抗的態度」にあるかのように主張する。しか
し、被告が主張する、原告の勤務態度に特の問題があり、それが原因ならば、事故を起こす
のは原告のみで、他の運転士にはみられないはずである。しかし、実際には過走事故をふく
む運転ミスは原告のみならず他の運転士においても頻発しており、それに対する被告の対応
は、わかっている限りでは概ね二日程度の教育で終わっており、原告のように長期間の研修
を命じられた例は皆無である。

 A判明している運転ミス
    (場所、上り下りの別、列車番号、ミスの内容、処分)
 2001年
   5月21日       総持寺  上り 停車 (通過すべき駅に停車した)
   6月27日       大宮   下り  停車 同上
   6月30日       西向日  上り 過走 教育二日
   7月10〜20日間  西向日  上り 過走 教育二日

 2002年
   2月24日       西京極  下り 運12035 過走 当日、翌日教育
   4月17日       西京極  下り 運8031  過走
  10月25日  原告
  10月31日       西京極  下り 運19085 過走
  11月8日                         過走
  11月21日       南茨木             過走
  11月30日       大山崎  下り 運15030 過走 教育三日
  12月3日        山田   上り         過走 教育なし、三日目に駅勤務了承


B 以上のように、運転ミスは原告以外の運転士にも頻発しており、その原因は到底原告の
日ごろの勤務態度に求めることはできない。これらのミスの発生時期は、被告会社の乗務員
の労働条件が次第に切り詰められた時期に一致しており、その原因は原告が考えるように労
働条件低下による疲労の蓄積ではないかと考えられる。また、運転ミスに対する被告の処分
について、原告と他の乗務員を比べると、原告に対してなされた処分が不当に重いことは明ら
かである。

(8) 被告は、原告に運転士としての適格性に問題がある旨、平成7年にさかのぼって様様な
事実をあげつらって力説しているが、本件訴訟提起直後の平成15年4月11日、再び運転士業
務に復帰させている。仮に被告が主張する適格性に問題が長年にわたり問題視していたのな
ら、この復帰は唐突と言える。このことは、実際には運転士としての適格性に被告が言う問題
点はなく、訴訟という公の手続きがとられたため、被告が慌てて不当な業務命令を撤回したと
みるのが自然である。

(9)以上のとうり、原告の運転士としての適格性には被告が主張するような問題はなく、被告
が原告に駅勤務を命じた真の意図は、原告が乗務員の労働条件低下に対し批判的な意見を
有し、被告に対して批判的な意見を表明している事を嫌悪する不当労働行為に他ならない。 


第3 請求の趣旨及び原因について

1、請求の趣旨について

請求の趣旨第一項については、原告が運転士として勤務する地位の確認を求めるものである
が、被告会社も原告が運転士として勤務する地位にあたることをについては、これを認めてい
るのでこれを取り下げる予定である。

2、請求の原因について。

原告は、被告が平成14年11月22日発令した業務命令を配転命令としてとらえ、その無効を請
求原因としてきたが下記の理由により、本件を「他職運用」と称する業務命令無効に訂正す
る。
すなわち、ビデオテープでの発令模様を見ると、原告のいつまでの期間の駅勤務であるかの
問いに対して、前記の通り、怪文書問題の調査終了までとされていること、これまで一時的に
せよ、本件のごとき場合に運転業務より駅勤務への変更を命じた例は全くない事は前記の労
働組合の発言よりも明らかであるが、いずれにせよ、怪文書問題の調査の為にその期間一時
的に原告を運転業務よりはずしたことに過ぎない等を考慮すれば、本件駅勤務を命じた命令
は、配転という固定的なものではなく、一般的、暫定的なものにすぎなっかたものであると考え
られるからである。
しかし、いずれにせよ本件「他職運用」なる業務命令は、本準備書面及び訴状記載の東リ、そ
の根拠を欠くもので、濫用であり、無効であることに変わりないものである。

第4 筆跡鑑定について

1、乙21号証(筆跡鑑定書)は被告主張の立証資料となっていないこと

被告は、被告会社宛ての一連の文書及び原告同僚の妻宛ての手紙について、これらの文書
の筆跡と原告の筆跡が同一人物による筆跡である可能性が高い旨の鑑定結果を得たと主張
し、鑑定結果として乙21号証を提出している。
本件鑑定結果は、前述のように、被告が運転士である原告に対し駅業務を命じた前提事実と
なっているが、被告が提出した乙21号証においては、単に資料甲ー1〜7と資料乙は「同一人
物による筆跡であると認められる。」という記載があるのみで、そもそも鑑定資料に原告の筆
跡が含まれてるかすら不明であるし、実際に資料甲ー1〜7と資料乙が同一人物による筆跡
であると認められるかどうかも明らかでない。したがって乙21号証のみでは、被告の主張に対
する立証としては到底意味なさない。

2、乙21号証に不審な点が多いこと。

(1)依頼人の住所、氏名が塗りつぶされていること。

被告はプライバシー保護のためと述べるが、本件鑑定が行われた経緯からすれば、依頼人は
被告会社か、若林氏などの原告の上司しか考えられず、あえて依頼人を伏せる事情は認めら
れない。それにも関わらず依頼人を明らかにしないというのは、そもそもこの鑑定結果が本件
に関し行われたもんであるかどうか、別件の鑑定結果を流用してるのではないかという疑問す
ら生じさせるものであり、非常に不審である。

(2)対照資料について

乙21号証によると、対照資料である「資料乙}は「封筒の表裏を・・・・使用いたし」たものとされ
ているが、原告は上司から、「平成14年10月25日の過走ミスについて同月26日に提出され
た報告書、始末書の筆跡と比べた」と聞かされていた。原告は同報告書、始末書とも封筒を使
用していないし、仮に26日提出書類が鑑定資料とされたとすれば、鑑定結果が出された平成
14年11月1日との間にはわずか6日間の期間しかなく。「依頼人」が鑑定人に鑑定を依頼して
資料を発送する時間など差し引くと、正味の鑑定期間はせいぜい三日間程度であったとなる。
このような短期間で筆跡鑑定の作業が完了するとは考えられない。
 また、原告は、若林氏宛てに同年10月23日に発送した手紙に封筒を使用しているが、仮に
この封筒が鑑定資料であったとしても、手紙が若林氏のもとに到達するのは24日以降であ
り、同様に鑑定期間が異様に短いという疑問が生じる。


3、 文書提出命令申立

上記のように、乙21号証には不審な点が多く、また、鑑定資料が共に提出されるものでなけ
れば証拠として意味をなさない。しかし、被告は鑑定資料の任意提出に応じないので、原告は
文書提出命令を申し立てる。
                                                 以上




裁判報告

証拠ビデオ会話内容。

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