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第3話 アトランティスはどこに

(1)

 最近、フランスのある地質学者が、ジブラルタル海峡の出口付近にある海に沈んだ海底島こそが、アトランティスだと主張しているようです。この島は氷河時代の後の海面上昇で沈んだもので、水深50メートルほどの海底にあります。
 海底にあるのに、スパルテル島と名づけられているそうですが、大きさは伊豆大島よりもわずかに小さいくらい。この程度の水深なら、水中探査はそれほど難しくないはずですが、肝心の遺跡はまだ見つかっていません。ここに、新石器時代の遺跡が何か残っているはずだと、この地質学者は考えているようです。

 遺跡も見つかっていないのに、アトランティスだと主張するのは、ややお粗末な感じですが、まあ、そういうハッタリがあったってかまいません。アトランティスだと断定できる遺構が見つかる可能性が本当にあるのなら、です。

 このようにアトランティスの遺構は見つからなくても、候補地だけは年々増え続けています。今ではアトランティスの候補地は、数十箇所とも、百数十箇所ともいわれています。大西洋上のアゾレス諸島や、カナリア諸島のほか、北アメリカ説、南米説、グリーンランド説、アイルランド説、イギリスのシリー諸島説、南極説、さらに地中海のサントリーニ島説、などなどです。

 しかし、まず最初に、はっきりさせておくべきことがありますね。
 アトランティスとは、新石器文化の範囲で捉えるのか、あるいは、もっと高度な文明だったのか、という考え方の基本路線です。

 私たち人類の文明はふつう、今から1万数千年ほど前の氷河時代の終わりとともに、農耕や牧畜を開始したと考えられています。これが新石器時代の始まりです。
 土器が発明されたのはこの時代ですが、金属器はまだ使われていません。都市もまだありません。
 そういう文明の前段階が数千年間、あるいはそれ以上あって、ようやく紀元前3000年ごろ、エジプトやメソポタミアで文明が始まった、と一般的に考えられています。青銅器(金属器)が使用され始め、統一的な王権と都市ができ、文字が使われ始めます。これが文明の誕生です。

 このようなオーソドックスな歴史の流れで、アトランティスを捉えると、アトランティスは新石器時代のなかに置くしかありませんね。
 エジプトやメソポタミアより古い時代に、ちょっとした文明があったのかもしれない。今は海の底に沈んでいるけれども、何か文明と呼んでもいいものが存在したかもしれない。文明の前段階とか、あるいは、揺籃期と呼ぶべき文化ですね。
 現に、アナトリア(現トルコ)のチャタル・ヒュークや、ヨルダン渓谷のイェリコなど、非常に古い都市遺跡が発掘されています。これらはエジプトやメソポタミアより数千年前の時代です。

 よくエジプトやシュメール文明は、突然始まったかのようにいわれますが、じつは十分に長い準備期間というか、先行期間をもっています。太古の人々の交易活動は、エジプトやシュメール文明の誕生よりも、はるかに古くから始まっています。
 その頃に、アトランティスという文明が存在していても、不思議ではありませんね。そんなものがあっても、全然おかしくない。
 ただし、この場合のアトランティスは、あくまでも新石器文化の範囲内にある、プレ文明という程度です。これはこれでアトランティスに対するひとつの考え方です。


 ところが、話はそう簡単には進みません。
 プレ文明というレベルの遺跡なら、アトランティスは世界中のどこにでもあります。現在、海の底に沈んでいる多少大きめの新石器時代の遺構は、すべてアトランティスの有力候補であっていいわけです。
 ヨーロッパや、アフリカの大西洋沿岸にある海に沈んだ遺跡でもいいし、大西洋上のアゾレス諸島あたりでも、あるいは、大西洋を渡った対岸のフロリダ沖あたりでもいいですね。
 極端にいえば、インドのキャンベイ湾でも、日本の与那国島でも、いいわけです。
 そこにプラトンの記述を思わせる大規模な遺構が見つかれば、アトランティスはここだ!と宣言してもいいと思います。
 ただし、これまでのところ、それほど大規模な遺構はまだ見つかっていませんけれども・・・。


 そうではなくて、アトランティスについては、もっと重要な問題があります。そもそも新石器時代の文化として捉えてよいのか?本当にその程度のレベルなのか?
 多くの人が考えているアトランティスは、おそらく、そうではないと思います。少なくとも私は、新石器時代のレベルではまったく捉えていません。

 世界各地に伝わる神話や伝承は、なぜか似通っていて、ある共通した文明から派生したような要素があります。たいていの文明には、知識を伝えた者たちの伝承があります。そこには、かなり高いレベルに達した文明か、高い知識をもった者たちの存在が予想されます。
 ピラミッドに収められた惑星のデータは、いったいどこから来たのか?古い航海用の地図に描かれた南極大陸の地形は、何に由来するのか?これらから想像されるのは、かなり高度な文明です。
 世界各地の巨石文明は、やはりどこか似通っていて、汎世界的な広がりを感じさせますね。
 アトランティスからイメージするのは、このように汎世界的な広がりをもち、エジプトやメソポタミアの文明誕生に影響を与えたような文明です。私たちの文明に先行するマザー・カルチャー、母なる文明ですね。どうも、限られた地域だけのプレ文明のようなものではないらしい。
 そんなものが歴史のなかに隠されているかもしれないからこそ、ミステリーなわけです。

 冒頭でジブラルタル海峡の出口付近にある海底島のことを紹介しましたが、もしこの島で小さな新石器時代の遺構が見つかったとしても、アトランティスが発見された、と考える人はあまりいないでしょう。新石器文化の枠のなかでは、アトランティスの核心には届かないと思えるからです。(2005年12月4日)


(2)

 これまでのアトランティス論争で、わりと有力候補地とされてきた場所には、大西洋上のアゾレス諸島と、地中海のサントリーニ島があります。
 ほかには、グラハム・ハンコックの『神々の指紋』で改めてクローズアップされた南極説もあります。これらはアトランティスが実在した場所といえるでしょうか。

 まずサントリーニ島説は、ギリシア人の考古学者ガラノポーロスや、マリナトスが唱えたのが最初とされています。地中海のクレタ島北部にあるテラ島(サントリーニ島)をアトランティス伝説の発祥地とします。
 この島は、紀元前1500年頃、島の大部分がなくなるほどの火山爆発を起こしました。その影響で地中海に栄えたクレタ文明が崩壊したことを、アトランティス崩壊のモデルとするのです。
 したがって、この説ではアトランティスはクレタ島とされています。しかし一般的には、爆発したサントリーニ島を優先して、サントリーニ島説で括(くく)られているようです。

 この説はこれまで、わりと常識的な研究者たちに支持されてきました。1万年以上も前に、大西洋上に高度な文明が存在したなどとは、普通は考えられないので、地中海に場所を移し、その年代も歴史に合うように新しいものにしました。
 プラトンの記述ではヘラクレスの柱の向こう側、つまり大西洋上にあるとされるアトランティスの位置を、地中海に移し、また崩壊の時期も9000年前ではなく、900年前とします。プラトンは数字を一桁間違えたというのです。
 ソロンが生きていた紀元前600年頃と、プラトンが一桁間違えた900年を足して紀元前1500年とすると、サントリーニ島の爆発とクレタ文明崩壊の事実がバッチリ重なるというわけです。このように都合よく解釈しました。
 はっきりいえば、プラトンのアトランティスそのものは否定しておいて、アトランティス伝説と現代の考古学のふたつに折り合いをつけた恰好(かっこう)です。

 ところが、最近の研究によって、サントリーニ島説はかなり苦しくなっています。ヨーロッパで早くから実用化されていた年輪年代法によって、サントリーニ島の爆発年代が明らかになりました。その年代は、予想されていたよりも古い紀元前1628年でした。
 これにたいして、クレタ島の多くの宮殿が崩壊するのは、紀元前1450年頃です。年代にして200年近いズレが生じてしまいました。従来、サントリーニ島説が根拠としてきたサントリーニ火山の爆発の影響でクレタ文明が崩壊した、という考え方のモデルが成り立たなくなったわけです。
 同時に、現代の考古学によると、クレタ文明が崩壊したのは、火山の爆発によるのではなく、ギリシア人など外敵の侵入によるとするのが一般的です。
 もともと「ヘラクレスの柱の西」とあるのを、「東」と読みかえ、「9000年」を「900年」と勝手に読み変えるところが、最大の難点でしたが、さらに、クレタ文明を破壊させたという根拠そのものが崩れてしまった。

 こうなると、ずいぶん旗色が悪くなります。
 この説はもともと、アトランティスを無理に歴史の常識に合わせようとしたもので、根底には、研究者の独自の解釈があります。プラトンの記述のなかから自説に都合のいいところだけを持ってくる、あるいは、自説に都合のいいようにばかり解釈する、というようなことではダメですね。少なくとも私には、最初のスパルテル島の場合と同様、ここがアトランティスとはどうも思えない。


 もうひとつの有力候補、アゾレス諸島についてはどうでしょう。
 アトランティスの場所という点では、プラトンの記述に一番合うのは、このアゾレス諸島でしょう。ただし、この島々からは1万年前とか、数千年前というような古い時代の遺跡は見つかっていませんけれども。
 プラトンによれば、アトランティスはほとんど一瞬にして大西洋の海底に沈んだということです。その原因は、地震や火山の爆発だったようです。

 アゾレス諸島は、大地の割れ目といわれる大西洋中央海嶺の上に位置しています。世界でも指折りの活発な火山活動が続いている地震地帯です。今も海底の造山運動によって、大西洋の海底を年に2センチずつ広げているといわれています。
 アゾレス諸島の島々の多くは、このように今も活発な噴火活動を行なっている活火山です。この海域ではこの数世紀の間に、小さな島ができたり、また海のなかに消えてしまったりという妙な記録があるほどです。
 島々の乗っている狭い海台のまわりは、一挙に数千メートルの海底へと落ち込んでいます。
 もし、本当にアトランティスという大きな島が、この付近に存在したとすると、その場所は今では水深5000メートルもの海底になっているわけです。
 しかし、いったいそんなことが可能なのでしょうか。海から出ていた巨大な島が、一挙に数千メートルもの深い海底に沈む。そんなことが本当に起こるのかと思ってしまいます。(2005年12月12日)


(3)

 今日はクリスマスで、おまけに日曜日で、年末ですから、世の中はさぞや楽しい気分にあふれていると思いますが、私は花に水をやるくらいしか特に予定がないものですから、大好きなアトランティスのことでも考えることにしましょう。

 さて、アゾレス諸島についてですが――
 アゾレス諸島とか、もう少しヨーロッパに近いカナリア諸島とか、大西洋中央海嶺の上に位置する島々が、かつて巨大な島であったことが本当にあるのか?あの島々はアトランティスの名残りなのか?はたして、そんな可能性があるのか、ないのか?
 数年前、そういう疑問を海洋地質学者の平朝彦さん(東京大学海洋研究所教授・当時)に尋ねてみたことがあるのです。ちょうど海底遺跡関係の本を作っていましたので、その取材というかたちでした。
 すると、平教授は、「アトランティスのことはよく知りませんが」
と、慎重に断ったうえで、
「火山島の場合は、噴火によって一瞬で数千メートルの海底に沈んでしまうことはありますね。沈むというより、山体崩壊ですね。磐梯山が爆発で崩れたように、火山島が爆発して、重力崩壊を起こすわけです。巨大な地滑りとなって、一挙に海底まで滑り落ちるんです。島がひとつなくなるなんてことは、世界中でしょちゅう起きています」
 なんと、このように言われる。さらに続けて、

「火山性の海山がしばしば大崩壊することは、これまでよく知られています。ハワイ列島なんかは、すでにもう半分くらいが大崩壊してなくなってるわけです。我々は残った島々をオアフ島だなんだと見てるだけで、実際には、あれの倍くらいの陸地があった。ハワイ諸島の海底には、そのようにして崩壊した巨大な山体が、5千メートルの海底に散らばっています。そういう例が世界の各地で知られています。アゾレス諸島に近いカナリア諸島でも、大きな海底地滑りが起こり、島がなくなった証拠が以前から知られています。アゾレス諸島の調査はまだ知りませんが、山体崩壊が起きた可能性は十分あるでしょうね」

 驚いたことに、可能性はあるということでした。アゾレス諸島付近にあった大きな島が、今では数千メートルの海底に沈んでいても不思議ではない、というようです。
 同教授によれば、火山島が一挙に数千メートルの海底まで落ちるような現象は、通常の地震などによる断層運動ではありえず、火山爆発のような重力崩壊でしか起こりえないということです。
 ただし、1万年前とか2万年前に、アゾレス諸島で実際にそういう事件があったかどうかは、また別です。アゾレス諸島付近で1万年ほど前に巨大な島が沈んだ証拠は、まだ見つかっていません。
 ただ、可能性だけならある、ということのようです。地質学というのは、何百万年とか何千万年という時間幅で地球の活動を調べますから、そういうスタンスで見ておく必要もありますね。

 教授の話を聞いて思い出したのは、以前読んだ本に書かれていた奇妙な報告でした。
 1970年代のはじめ頃のわりと信頼できる(たぶん、出鱈目は言っていないと思える)古代史研究家たち(C・ベルリッツ、A・ゴルボフスキー、E・アンドレーエヴァなど)は、大西洋の海底についての興味深い話を述べていました。
 大西洋海底ケーブルの修理のさいに、アゾレス諸島付近の水深数千メートルの海底から採取された岩石が、地上でしか生成されないものだったというのです。それは熔岩の一種のタヒライトという火山ガラスで、水中で急速に冷却されたものでなく、大気中でゆっくり冷えた場合にのみ生成されるということです。しかも、その年代は1万5000年前、すなわち、その年代には陸上にあったというのです。
 そのほかにも幾つか、大西洋の海底がかつて海面上に出ていた証拠のようなものを彼らは報告していました。

 正直のところ、この話を読んだときの私は、まったく真面目に受け取る気にはなれなかったものでした。1万数千年前に陸上にあったものが、なぜ今では深さ数千メートルの海底にあるのか、その説明がつかないので、アトランティスの沈没と結びつけるには、あまりにも頼りない。
 どうもおかしいと思ったのですが、上の教授の説明と合わせて考えてみると、可能性はあるということになります。
 1万数千年前に大西洋中央海嶺のどこかの火山が噴火して、一瞬で沈んだとすれば、その痕跡が今、数千メートルの海底にあってもおかしくない。アトランティスも、そのようにして沈んだのかもしれない。

 ただし、ひとつの火山島が爆発して海に沈むのと、大陸と呼べるほどの巨大な島が、海に沈むのとは、おそらくケースが違うでしょう。プラトンによれば、アトランティスは、アフリカの北部と小アジアを合わせたほどの大きさだったということです。地質学ではこれまで、大西洋上にそれほど大きな陸地が存在したとは、一般に考えられていないようです。平教授も、そこまでは言及されなかった。
 つまり、可能性がないとはいえないけれども、1万年ほど前のアゾレス諸島付近に、アトランティスが存在したとは常識的には考えにくい、ということのようです。
 前にみたようにアゾレス諸島でも、あるいはカナリア諸島でも、アトランティスを思わせる遺跡は何ひとつ見つかっていません。この島々の歴史はそれほど古くないようで、数千年前の遺跡もありません。大西洋の海底からも、アトランティスの痕跡自体が発見されたわけではありません。
 
 どうも、このあたりが何かおかしい。腑に落ちないですね。
 アトランティスの発見はもちろんのこと、その周辺のどこからも、アトランティスを思わせる有史以前の未知なる遺跡は、何ひとつ見つかっていない。なぜなのか。そこが一番引っ掛かる。
 これは南極についても同じなんです。(2005年12月25日)




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