春は何処から来るかしら(2003.03)

 

伊勢 真一

 

年末からつい最近まで、自治体から頼まれた市制ビデオの仕上げに取り組んでいました。ヒューマンドキュメンタリーシリーズと銘打って、その街にゆかりの人物をドキュメントするという企画で、もう10年来の仕事です。

大西勲さん

 

今回は、漆工芸の大西勲さん(57才)、洋画家の森田茂さん(96才)、柳田昭さん(55才)が主人公でした。


私の仕事のありがたいところは、色んな人と出会うことが出来ることです。無精者なので、積極的に新しい人間関係を創っていくタイプではない私ですが、カメラとマイクがあれば新しい出会いを体験できるということです。
で、
今回もとてもいい出会いを体験させてもらいました。
漆工芸の大西勲さんは、昨年の夏に人間国宝に認定された方です。まだ50代の若さですが、その仕事は、ちょっと真似が出来ない程ねばり強く、細やかで、完成度の高いものです。「曲輪造」という技法で、木地造りから塗りまでの全ての工程を、たった一人でやり切る仕事のすすめ方なので、一年かけて3作品完成させるのがやっとだと言います。
大西さんの作品と仕事場と様々な道具と、何より人間に惚れ込んでしまった私たちスタッフと、私たちの撮影振りに惚れ込んでしまった大西さんとの濃密な出会いによって産まれ出た、短編ドキュメンタリーは「きゅう漆」と名付けられました。物造りや職人に寄せる想い入れたっぷりの世界が描かれています。

 


   「名も無い道具を使って木を削っていると、本当に良い仕事をする物や人は、
    みんな隠れて仕事してると思うんです・・・。」
   「もう滅びてしまう寸前の仕事です。」
   「もしも私が吃りでなかったら、きっと職人仕事にのめり込んでなかったなぁ
    ・・・と時々思います。」
   「出来上がった作品が売れないところがいい、売れるような仕事は面白くない
    よね。こんな気分の良い仕事でお金を貰ったらバチが当たりますよ。」
   「いいころ加減な人間で、いいころ加減に生きてきて、周りのみんなに
    スマナイナァと思ってます。」


仕事場で大西さんが手を動かしながら、ため息のようにつぶやく声を録音し、手仕事が醸し出す物音の合間に編集し、サブタイトルを「職人 大西勲のつぶやき」としました。


大工をクビになった、揚げ句の果てにドキュメンタリー映画でメシを喰うようになった私としては、昔の恋人に再会したような気分の出会いでした。
映画は「出会い」だというよりも、「訣れ」だと言ったのは高倉健です。
撮影が終わり、編集が終わり、音入れが終わり、堂々完成。打上げで大いに盛り上がり、やがてかすかな記憶の片すみのように完成した作品がポツンと残される。
そして、その作品にかかわった一人ひとりもそれぞれポツンと残される。


春は何処からくるかしら、
あの山越えて来るかしら・・・