「コンバース」と「廣目天」(2010.11)

 

伊勢 真一

 

 

「秋深し…」
春、夏、秋、冬の中で、季節が深まる、という感覚があるのは、
秋だけかも知れない。

深まる秋の中、映画「風のかたち」の巡業隊、私と細谷亮太医師は
「風のかたち」英語版(「Shape the wind」)と共にアメリカを旅してきた。
ボストン、ニュージャージー、コネチカットで、4日間にわたって6回の上映という
強行軍の自主上映ツアーであった。
反応は…すこぶるよかった。日本での自主上映に勝るとも劣らない反響。
何と、三ヶ所でスタンディングオベーションが起きた。
ただでさえ、誉められることに慣れていない私は、どうしていいかわからず、
オロオロしてしまうばかりであった。

「風のかたち」に登場する子供たちの、生き生きとした表情と言葉、
生き方に寄せる素直な感動と細谷亮太医師への敬愛が、
それだけ大きかったということなのだと思う。

私の手柄は、強いて言えば足元にあり。
いつも履いてる「コンバース」への、思わぬ共感に驚いた。
上映後に何人かから、私が中学時代から履き続けている白い「コンバース」がいい、
と誉められたのだ。
どうやら、アメリカの古き良き青春のシンボルらしい。
「コンバース」にスタンディングオベーションか?

日本に舞い戻ってすぐ、奈良の東大寺へ。
東大寺戒壇院にある四天王の仏像のひとつが、私にとても似ている
と何人かの人に言われ、上映を兼ねて逢いに行ってきたのだ。

仏像の名は「廣目天」。
筆と帳面を手に持ち、目を凝らし正面を見すえるその姿は、
インテリジェンスに満ち溢れている。
1300年間、そおしてジッと佇んできたのだ。
似ていると言われても、目が細く小さいところぐらいで、
吹けば飛ぶよな「コンバース」ドキュメンタリスト、とはエライ違いだと思う。
でも、面会することが出来て、ちょっとばかし嬉しい気分であった。

世の中には誰にでも、似た人が三人はいると言う。
私は時々、元横綱の「輪島関」に似てると言われるけど、
そんなに強い男じゃない。
「廣目天」さんほど、知的で悟りの境地に達しているわけもない。
何が何だかワカラナイ、フニャフニャ人生進行形じゃ。
でも、あと一人似ている人がいるとしたら、どんな奴だろう?
きっとそのうち、そのもう一人にも逢えるような気がする。
逢ってみたい。

隣は何をする人ぞ…の季節。
隣の人のことはともかく…地道に仕事をするべし、遊ぶべし。

「悠々として急げ…」
とは誰が言ったんだっけ?