噛みしめる

 

伊勢 真一

 


寒さの厳しい一月の終わりが誕生日のくせに、私はけっこう寒がりだ。
ここのところは肩をすぼめて、鼻水をすすりながらの日々であります。

新年早々、佳きことがふたつ。
ひとつは、昨年の今頃完成した映画『大丈夫、−小児科医・細谷亮太のコトバ−』が、
2011年キネマ旬報文化映画ベスト・テンの第1位に選ばれたこと。
作品創りにかかわったスタッフはもちろんのこと、細谷先生はじめ
出演されている小児がんと闘い続けた子どもたちのご家族にも知らせ、
喜びを分かち合いました。
よかった、よかった。
いつものことではあるけど、批判もされたし、無視もされた作品だけに、
私も素直に嬉しい。
映画の神様はちゃんと観ていてくれたんだと
手を合わせたい気持ちです。

もうひとつの佳きことは、昨年三月以来撮影を続けていた東日本大震災の被災地、
宮城・亘理町と福島・飯舘村を舞台にしたドキュメンタリー
『傍(かたわら)〜3月11日からの旅〜』が、
ようやく完成したことです。
出来立てのホヤホヤでの内々の御披露目上映を、新年会を兼ねてやることが出来ました。
集まってくれた会場一杯の仲間たちが、大きなどよめきのような拍手で
映画の完成を祝ってくれた。
ちょっと内輪誉めもあるかもしれないけど、観終わった誰もが口を揃えて
できばえを誉めてくれた。
産まれたばかりの赤ん坊を「可愛いい、可愛いい…」とネコ可愛がりするような雰囲気でね。
嬉しい。ありがたい。
これから先、色んな批判にさらされても、
それに耐える力を仲間たちが与えてくれたような気がしました。

私にとっては、この上ない新年早々の二つの佳きことを、
各地で応援し、私達の映画創りに関心を持ってくれている一人ひとりに報告したい。

しかし、映画が出来上がり評価されても、映画に登場してくれている人々が、
今も厳しい現実を生きているという事実に変わりはない。
『大丈夫。』が描いた小児がんとの闘いも、
『傍』が描いている東日本大震災の被災地、被災者の現状も…
ドキュメンタリーには終わりがないのだ。
エンドマークが出たあとの人生をそれぞれが自分自身の役を引き受けて生き続けるのだから。
だから、ドキュメンタリーの創り手は映画が完成し、どんなにその作品が評価されても、
手放しで喜んでいてはいけないのかもしれない。
修行が足りないので私はついつい有頂天になってしまったりするけど…
「喜びを噛みしめる」と言うけど「噛みしめる」という態度がふさわしいナリワイなのにちがいない。

『大丈夫。−小児科医・細谷亮太のコトバ−』
『傍(かたわら)〜3月11日からの旅〜』
をぜひ観てもらいたい。
そして自主上映に取り組んでもらいたいと思います。
どうか、よろしくお願いします。

誕生日を終えると、ゆっくりゆっくり季節がめぐり、やがて春がやって来ます。
この時期に産んでくれたことを親に感謝したいと、この頃思うようになりました。

春よ来い、早く来い…