「Blood on the tracks/Bob Dylan」
「血の轍/ボブディラン」

1・ブルーにこんがらがって / Tangled up in blue
2・運命のひとひねり / Simple twist of fate
3・君は大きな存在 / You're a big girl now
4・愚かな風 / Idiot wind
5・おれはさびしくなるよ / You're gonna make me lonesome when you go
6・朝に会おう / Meet me in the morning
7・リリー、ローズマリーとハートのジャック / Lily,Rosemary and the Jack of Hearts
8・彼女に会ったら、よろしくと / If you see her,Say hello
9・嵐からの隠れ場所 / Shelter from the storm
10・雨のバケツ / Buckets of rain
'75年発表作品 SRCS-6167





のホームページで紹介する音楽第一号は敬愛してやまないボブディランの作品です。

ボブディランと初めて出会ったのは中学生だった頃。
母親が持っていた「ディラン、風を歌う」と一冊の本だった。
ボブの歌詞を取り上げて、彼のメッセージの芸術性や奥の深さについて書かれた、
ローティーンには少し難解な分厚い翻訳本で、
僕は解説をほとんど読み飛ばし、引用されている歌詞の世界に夢中になったものだ。
謎解きのような言葉の群れは、一行一行が短編の物語のようで、まったく不可思議な気持ちになった。
まだ見ない外国の、例えば「ナッシュビルの路地裏で深夜ペギーディに会いに行く白人の男」
を思い浮かべ、結末を勝手に決めて「廃虚のバルコニーで失望」させたり、
「真夜中のカウボウイ」とか「地下室で薬を調合するジョニー」なんて言葉から、
「アメリカ」という国に対してあれこれ想像をめぐらせた。
ちょうど洋楽を聞き始めた頃で「ベストヒットUSA」なんて番組が流行っていたので
「アメリカ」や「イギリス」に興味津々だったんだな。英語の勉強は全然だったけどね。
彼の映像を初めて見たのは「ライブエイド」という世界的なミュージシャン達のチャリティイベントで
「Rolling Stones」のキースとロニーを従えて出演していた。
ボブの登場の仕方はうやうやしくて、「あの大スターのキースとロニー」が
「ロックの神様」の為に伴奏してます、という雰囲気が印象的だった。
何とも「ボブディランってヒトは相当に偉大な音楽家なんだナァ」と感心したのだよ。
「こりゃ本読んでるだけじゃなくて聞かんことにゃ」と母親のレコード棚をあさったところ、
「ボブディラン・ベスト」というカセットテープを発見。
このカセットテープは10代が終わる頃までにすり切れるほど、聴いた。
A,B面合わせて30曲程収録されていて、聴いても聴いても飽きることがなかった。
聴いた時の気分や天気や、ようするにその時の状況によって色々な響き方をする音楽だった。
彼の声やメロディー、言葉は不思議なほど「暮らし」や「見える景色」に溶け込んだ。
雨の日は灰色の街を嘆くような響きにかわり、晴れの日には、行く先々を照らすかのようだった。

今、僕が思いだしてるのは、2時間かけて埼玉の高校まで通学していた途中の八王子駅。
「八高線のホームの待合室の横の喫煙所」あたりだ。八高線は単線で高崎まで続いている。
二両編成の小さな電車で、利用者は本当に少なくて、
一番端にあるプラットホームは、いつも人影がまばらで寂しかったな。
学校に遅刻する度に一時間に一本しかない発車時刻まで時間を潰しながら、そのカセットばかり聴いていた。
このホームページのタイトルの「Tangled up in blue」はそのカセットに収められていたんだ。
早口の英語で「タングレットアップインブルー」と、段落を締める下りを口づさみ、
歌詞の意味もわからずに「ぶるー」な気分で空を眺めるのが好きだった。

のアルバム、詳しい解説はライナーノーツに任せるとして、
どんな作品かというと(先程も書いたけど)、一曲一曲がまるで「短編小説」のようだ。
登場人物も豊富でそれぞれに役割がある。その役割とはボブの景色を伝えると言うこと。
ディランは曲中に何人もの登場人物を介在させて、巧みに物語を進める。
そして彼らの話す言葉や仕草に自分の見解や想いを丁寧に重ねていく。
例えば印象的なのは「リリー、ローズマリーとハートのジャック」という曲で、
町のダイヤモンド坑の親方「ビックジム」とその妻「ローズマリー」、水商売の女「リリー」。
場末のキャバレーを舞台に不倫があり罠があり、強盗が計画される。
悲しい結末の物語を「ハートのジャック」というキーワードで軽快に語っていく。
「ビックジム」と「ローズマリー」は結局しばり首になり、
「リリー」は自分の運命を分けた「ハートのジャック」を想う。
物語にはきちんとオチもあるのだけど、場面を切り抜いて作られた段落に
ちりばめられた教訓めいた言葉や台詞が興味深い。翻訳された歌詞を読むだけでも楽しめるほどだ。
出来事を並べてみると悲劇にも見えるけど、ディランはカントリー調のリズムでユーモラスに歌ってみせる。
その渇いた印象が悲しみやら喜びを一層際立たせているんだ。
どの曲も聴いた人の数だけ解釈の仕方があって、聞く時々によって見える風景が変ってくる。
どんな洋楽のCD作品でもそうだけど、特にボブディランは翻訳詞の載っている邦盤を購入することをお薦めします。
僕は彼の全ての作品を完全網羅した訳ではないけど、持っている作品はどれも宝物なのです。