Web小説「甘いビターチョコレート」
甘いビターチョコレート 【其の肆】
カチャカチャ・・・
サクラの家の台所には,
金属の軽快に鳴り合う音が聞こえていた・・・

「ふんふん,ふふ〜ん」

手際よく,チョコレートを湯せんしていくサクラ.
これなら,俺が手伝う必要なんて無いんじゃないの・・・?
そんな疑問がナルトの頭でうようよしていた.

「はい,じゃあコレの後は頼んだわよ」
「う,うん.任せてってばよっ」

そう言って,今まで溶かしていたチョコレートをナルトに手渡す.
サクラが今までやっていたことと同じように,
チョコレートを追加しては溶かしてゆく・・・.

傍から見れば,その光景は「手伝っている」というよりは
「教わっている」という方がしっくりくる.
もちろん,それはサクラの策略.
料理の根本的な仕様を間違えているナルトに料理を教えるには,
コレが一番だということをサクラは今までの経験から理解していた.

料理の方法で「何故そうするのか」といった思考まで回らないナルト.
そんなナルトに,あれやこれやと言葉で伝えても意味は無い.
手先はそんなに不器用じゃない彼女に料理を教える方法・・・
それは,目の前で手本を見せて,それを機械的に同じ事をさせる.
応用はきかない方法ではあるのだが,コレが一番なのである.

(サスケくんも,こんな風に教えればいいのに・・・)

もちろん,サスケもそのことは理解しているはずだ.
しかし,それでは後のナルトのことを考えるとためにならない.
それで,ついつい言葉で理解させる方法をとってしまうのだろう.

好きな人だからこそ,やってしまう不器用さ.
そんな彼の心情も理解できるからこそ,サクラのため息は止まらない.
悩むサクラの傍ら・・・ナルトはというと・・・

「ん〜いい匂いだってばよ〜」

部屋中に広がるチョコレートの甘い香りに,
思わず「ぼ〜」としてしまっていた・・・.

「コラ!ナルト!手が止まってるっ!!」
「ご,ごめん!!」
(ふう・・・まったく・・・)

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「さって,私の分も終わったし,今度はアンタの方ねっ」

サクラの作ったチョコレートは,ハート型のホワイトチョコレート.
黒のチョコレートで書かれた「I love you」の文字のセンスも良い.

「う・・・ん・・・」

サスケほどではないものの,サクラの腕もなかなかのもの.
ナルトはちょっと,作る前から自信喪失気味である.

「やり方は同じよ.一人でやってみる?」
「う〜ん・・・ちょっと,手伝ってほしいカモ.」

そんな顔を赤らめて,俯きかげんの悩ましい表情をするナルト.
内なるサクラが,思わず叫んだのは言うまでもなかった.

・・・
カチャカチャ・・・

四苦八苦しながらも,なんとかできている様子.
サクラもチョコレート作りの面においては安心していた.
問題なのは・・・

(にしても・・・このチョコレート・・・どうしよう・・・)

自分が食べる分だとサクラに言ってみたものの,
ナルトだって,家事オンチを除けば普通の女の子.
バレンタインデーに自分で作ったチョコレートを自分で食べるのは,
ちょっと悲しいものがある.

悩む間にも,チョコレートは四角い形を変え,
ボールの中でぐにゃっと液状に変化してゆく・・・

そんな溶けたチョコレートから出てくるのは,先程とは違う香り.
甘い部屋の香りが,徐々に変化してゆく・・・
ちょっと,ほろ苦い香り・・・
甘いものが好きなナルトが,何故か選んでしまった香り・・・
真っ白なナルトの頭の中も,そんな香りで包まれてゆく・・・

その中で・・・見えてきたのは・・・