『今日のアナタの運勢は・・・6位で〜す!!』 「び・・・微妙・・・」 2月14日. そう,今日は菓子の種類にすぎないはずのチョコレートが いつもとは違った意味を持つ日・・・バレンタインデーである. 昨日の後悔で一睡もできなかったサスケ. 目の下はそんな心労のせいか,クッキリとクマができている. せめて,そんな不安を解消できればと 朝のニュースの前にやる星座占いを見た結果は6位. 星座は全部で12だから,ほぼ真中. これでは,良いのか悪いのか,よく分からない. まあ・・・上位半分と考えれば,良い方なのだろうか. 「もう・・・出よう・・・」 これ以上一人で悩んでしまったら,本当に倒れかねない. 朝食のおにぎりもまともに腹に入らないまま,家を出ることにした・・・. ・・・ それは,逆効果だったのかも・・・. そう,サスケが思ったのは教室に入ってすぐのこと. 「サスケくん!これ,貰って下さい!」 「貰ってくれるだけでいいんですぅ〜!!」 「甘いものが苦手と聞いていたので・・・マフラー編んだのですが・・・」 前にも言ったように, ナルトに少しでも振り向いてもらえるようにと, サスケは様々な努力をしてきた. 体術,忍術共に抜群.さらに元々の顔立ちも良い. これで,他の女子に注目されないはずは無かった. そんな訳で,教室に入るサスケを囲むのは, 女子,女子,女子・・・の嵐. 一人で悩まないために学校に行ったものの,これはこれで鬱になる. しかも肝心のナルトは,その集団から離れた遥か彼方. 悩むサスケを知ってか知らずか,サクラとおしゃべりをしている. (ったく・・・こっちの気も知らずに・・・) それなら,昨日は優しく接すれば良かったのに・・・. そういう人が多いと思うのだが, 今のサスケにはそんなことを考える余裕は無かった. 一方,ナルトの方はというと・・・ 「くーっ!!あのスケコマシ!!」 サスケには聞こえないくらいの大きさで,叫んでいた. 女の子に囲まれているサスケを見ると,何故かムカムカしてくる. 「人がいっぱいで顔が見えないけど, きっと鼻の下を伸ばしてにやにやしているに違いないってばよっ!」 「んー・・・そうでもないんじゃない?」 「・・・え?なんで?サクラちゃん?」 「ほら,そこ.いつまでたっても,チョコレートが手から離れないし・・・」 確かに・・・. 集団の中央付近にいる女子の手から, チョコレートが消える気配は一向に無い. (甘いものが苦手だから,チョコレートは受け取らないのかな・・・) そう考えてしまうと,鞄の中にある包みは奥へ奥へと深く行ってしまった. ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ 「・・・散々だ・・・」 サスケがあの集団から逃れることができるようになったのは,もう放課後. 休み時間では朝と同様に囲まれるし, 授業中でも何やらメッセージの書かれた紙が教室中をグルグル回っていた. もちろん,行き先はサスケの机. 書いてあるのは「放課後,中庭で待っています」の文字. もちろん行く気などは毛頭無かった. 答えられない好意は貰わない. これが彼の信念でもあった. 本当に「貰うだけ」になってしまっては,彼女らに失礼だと思う. かといって,全てにお返しなどしてしまったら,破算まっしぐら. しかも,甘いものが苦手な彼. あの大量のチョコレートを消化することなど, 考えただけでも冷や汗は止まらなかった. でも・・・彼女からのチョコレートとなれば別. どんなに甘かろうと,どんなに大きかろうと, 喜んで食べきる自信はある. それほどまでに彼女を想っている彼だからこそ, 極力,チョコレートであろうと,そうでなかろうと受け取らなかったし, 中には強引に渡していく人もいたのだが, それは先程まで返しに行ってきた. そして,手元に残ったのはカラッポの空気の束. あんなに欲しかった,たった一つのチョコレートは彼の元には無い. 夕日も沈みかけ,白い校舎の壁はオレンジに染まり, それを黒く染める影は自分のものしか無かった. 「・・・帰るか・・・」 もう,身体も心も疲れきった.何が「6位」だ・・・. とてもじゃないが, 世界の半分の人々が,今の自分より不幸であることなど, 今のサスケには想像できなかった. 同じく夕日で染められた下駄箱. その中に入っている靴など,もう無い. もちろん,彼女の下駄箱も例外では無かった. これで今年のバレンタインデーも終わる. ナルトに認識される前の去年と何も変わらぬままで・・・. ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ 「なっ・・・」 思わず声が出てしまった. 誰もいないはずの校門に,ふわっとスカートをなびかせる一つの影. 背景に見える太陽に負けずに輝いた髪. 白く透けたその肌は,夕日の光を受けて, 綺麗なオレンジ色に染まっていた. その人影は,サスケが一番好きで,気になっていて, そして今日,ずっと見つめてきたアイツ・・・. 「あはは・・・帰り・・・遅いんだね」 「ま・・・まあな・・・」 流石に「今までチョコレートを返しに走り回ってた」など言える訳が無い. 「・・・」 「・・・・・・」 しばし沈黙. 正直,ナルトが残っているとは夢にも思わなかった. 今日は,一日中まともに顔を合わせることができなかったし, そんな素振りもナルトから感じることができなかった. しかも,昨日はあんな喧嘩をした手前,期待するほうがおかしい. でも・・・でも・・・ 今は期待してもいいんだよな? こんな時間に,こんな場所にいて,こんな挨拶をしてくれてるのだから. 「・・・あ・・・あ・・・」 「・・・」 「あの・・・!こ,これっ!」 「!?」 そう言って,目の前にあるのは綺麗にラッピングされたプレゼント. 大きさから見ても,間違いなく・・・チョコレートだ. 「え・・・これ・・・」 「昨日の仲直りっ! あ・・・でも,頑張って作ったんだってばよっ!」 「なっ!?」 (作った!?ってことは・・・コレって手作りなのか!?) 意外も意外. もう貰えないと覚悟していた物が・・・ この世で一番欲しかった物が今,目の前にあるのだ. しかも,手作りときている. 『仲直り』というオプション付ではあったが, そんなことはどうでも良かった. 「あ,でも・・・いらなかったら返してもいいってばよ・・・. オマエって,甘いもんが苦手って聞いてたし・・・.」 冗談じゃない!! これ以上の沈黙は『拒絶』と判断されてしまうかもしれない. そう考えたら,言葉よりも身体が反応してしまった. バッ! 「お,おい!」 ナルトからそのチョコレートを受け取ると (というか奪っているのだが・・・), その場で包みをはがしてゆく. ・・・ 中身は一口サイズのブロックチョコレートが7,8個入っていた. 大きさは大小様々で,形はいびつで, 『手作り』ということが一目で理解できた. そして,その一つを取り,口に入れる・・・ 「・・・」 「・・・・・・」 サスケの見せる初めての姿に, ナルトは頭の中が真っ白になってしまっていた. そして,サスケはじっくりと味わい,口の中身が消えると・・・ 「・・・これで,返品不可だな」 「!!!!」 ほんのちょっとの間ではあったのだが, 今までに見せたことの無かった優しい笑顔のサスケがそこにあった. 流石のナルトも, 自分のチョコレートを受け取ってくれたことは理解できた. 「ど・・・どう?」 なんたって,昨日は料理の根本で怒られたばかり. やはり,味はどうだったのか気になってしまう. 「すげえ・・・美味い」 確かに美味しい. だって,昨日のあの時からずっと食べたかった物だから. 去年の自分では食べられない物だから. 貴女の気持ちがこもった手作りだから. しかも・・・ 甘いものが大好きな貴女からは想像もできなかった 『ビターチョコレート』だったから・・・ 「ほんとー!!良かったってばよ〜」 今までの不安そうな顔はどこへやら・・・ 目の前にあるのは,1年前に見たものよりも眩しい太陽だった. 「って!お前,味見もしてなかったのか?」 「だって・・・味見なんかしたら,その分,減っちゃうってばよ・・・」 そんな一言の嬉しさといったら何だろう. 「で・・・本当に不味くない・・・?」 「ああ」 「本当に?」 「本当」 「本当に?本当に?」 「・・・」 「・・・・・・」 「・・・ったく・・・しょうがねぇな・・・」 「え・・・?」 言葉も終わらぬうちに,ナルトの唇には柔らかい感触. そして,開いた口には甘い,甘い香り. ビターチョコレートのはずなのに・・・ なるべく甘くないチョコレートを選んだはずなのに・・・ そのチョコレートは,大好きな甘い味がした. 「どうだ?」 内心ドキドキしながらも, 外見では何事も無いように見せてみるサスケ. けど・・・ 「さ・・・さっ・・・」 「ん?」 「サッ,サスケのばかーっ!!!!!!!!」 バッチーン!!! ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ 嗚呼・・・ やはり彼の今日の運勢は「6位」な模様・・・.