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第2話 哀愁のシュークリーム

 シュークリームはお好きですかと聞かれて”No”と言う人に私はいまだ会ったことがない。私にとってそれはお菓子の中でも特別な位置を占めるノスタルジックな食べ物なのである。

 形がいい。シュー・アラ・クレーム。キャベツを表すシューの、かわいた感触。ちょっと他にない。

 持ったときの持ち重り感がいい。カスタードクリームぎっしりを予感させる重さ。クリームパンだとこうはいかない。

 シュークリームにかぶりつく。ひしゃげる皮。はみだすクリーム。落下させじとあわててくらいつく。間に合えばよし。落ちたクリームをすくってなめるのは少々哀しい。しかしまた、はみ出すほどにクリームがたっぷりがたまらなくうれしいのだ。シンプルにしてリッチ。人間こうありたいものである。

 さて、この愛すべきシュークリームが、家庭で手軽に作れるという。テレビで小学生が作ってる。電子レンジを使って、カンタンに、できるという。それじゃあ作ってやろうじゃないか。ここでコソクな私はパートナーをそそのかし、我が手を汚さずに手作りシュークリームを食する計画にでた。時はまさにホワイトデー。絶好の機会だった。

 あくまでアシスタントに徹する私が恐れていたのは、お菓子の本にたくさん載っている、”Q&A シューがふくらまない”という文字だった。シューがふくらまない... シュークリームにとって、それは致命傷といえる。ふくらまないシューに、どうしてクリームが入れられようか。しかし、内心の不安を押しかくしつつ、作業の指示は続けられていく。カスタードクリームができあがる。電子レンジで、ごく簡単にできるのだ。家庭で作ったクリームはうまい。玉子の味がする。あついできたてのクリームをなめていると、ほっこり幸せな気分になり、このままどんぶりかかえてクリームを食べつくしたいしょーどーにかられる。しかし作るのはシュークリーム。シューがなくては話にならない。気をとり直してシュー生地作りに入る。シュー生地は、固すぎてはならず、やわらかすぎてもシューはふくらまない。火加減の調整を途中でせねばならず焼き上がるまで、ゆめゆめオーブンの扉を開けてはならぬ。生地の固さは、ビギナーにはあまりにもファジーな記述であった。こんなもんじゃろ、とオーブンに入れてしまう。もうどうすることもできない。なにしろ、扉を開けてはいけないのだ。数分後、バターと玉子と小麦粉の焼ける、香ばしい匂いが家中に充満する。クリームが憩いのわが家ができるのを待っている。

 オーブンレンジの扉ごしに、心もち、ふくらんだシュー生地が焼けていくのが見える。こっちの胸は、期待にふくらみきっている。しかし、しかし、ここでシューはふくらむのをバッタリやめてしまった。それらしげなキレツさえ見せながら、それ以上、成長しないのだ。あせったパートナーが焼き時間を追加する。それでも、シューはふくらまない。その上、黒くこげていく...

OH My God.

 オーブンから出されたのは、キャベツとは似ても似つかぬ、カルメ焼きだった。マイホームの夢はくずれさり、ガレキの山にちんざましましたカスタードクリームは、フルーツなどの力も借りて、「オープンシュー」という新しい名前をもらい、第2の人生をスタートしたのだった。

教訓

 「ひとりでできるもん」。できるものならやってみな!

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たぶん12万