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第8話 柿+レモン=?

 我が家で高級な食材に出くわすことは滅多にないが、大量の同一食材にみまわれることは時々ある。パートナーの実家が農家で、野菜、果樹を栽培しており、段ボール箱に詰め込んで送ってくれるのである。

 夏は野菜。キュウリ20本、茄子15本、ピーマン20個、トマト10個、万能ネギ1束、オクラ1袋、とうもろこし、枝豆、菊の花、そして大玉すいか1個…。有り難くて、やがて哀しき…、小さすぎる野菜室の前にたたずみ、深い溜息を禁じ得ない。その日から、連日ヘルシーな料理が食卓に並び、「もろきゅう」、「ゆで万能ネギの酢味噌あえ」といった苦肉の策が講じられるのである。

 秋は果物の季節だ。冷蔵庫に入りきれず行き場を失ったりんごやぶどうが、甘い香りを漂わす。しかし、そのうちに甘酸っぱい香りになり、発酵臭となったりしてしまうのである。

 柿というのがまた、くせ者なのである。

 ここで重要なのは、この柿が東北産の平べったい渋柿である点なのだ。柿、約40個はビニール袋に入れられ、焼酎に浸けられて、渋が抜けるのを待っている。「*日頃、食べ頃です」という注意書きが貼り付けられている。その日がくるまで食べられず、その日がくると40個全部、いきなり食べ頃となるのである。料理は化学である。そしてその後は、日一日と熟していき、数日後には、全体がとろとろでふにふにの、上から落とせばべちゃっと潰れる完熟柿となってしまうのだ。

 皮をむくのさえ難儀なこの完熟柿を、どうしたものかと考えた。完熟柿の食感を好む御仁も中にはおろう。しかし私はそもそも柿が苦手なのだ。ぬめっと甘いだけで、心惹かれるものがない。ましてや歯ごたえさえ失われるとなると、そう、いただけない。まさに、いただけないのである。しかし、腐ったわけではなく捨てるには忍びない。この食感を利用して、ジャムを作ったらどうだろう。

 善は急げ。早速なべに柿をむいていれ、火にかける。砂糖をいれ、木べらでつぶす。簡単にジャム状になる。見るからに「ペクチン」という感じだ。よしよし。あとはジャムに必要な酸味と香りである。レモンを投入する。

 味見。えっ??…この味は、いつか味わったことがある.......遠い昔.......そうだ、オレンジジュースだ!果汁の含有量の限りなく0に近い、みかん色で甘いだけの安っぽいジュース。幼少のみぎり、蕎麦屋かなんかで飲んだ瓶に入ったあのジュース。ここでこんなものに出会えるとは…!

 柿+レモン=みかん だったのである。

 出来上がった柿ジャムは、「手作り無添加・自然派ジャム」に間違いないのに、なぜか物哀しい合成着色料を連想させた。

教訓

 料理は化け学である。

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