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第14話 手作りパンへの挑戦

おいしくできたパンの図

おいしくできたパンの図

 友人が遊びに来た。みやげは手作りパンである。私は目をむいた。
 パンというのは、朝一番はやいパン屋のおじさんが、うんとこしょ、と白い粉こねて作るものではないのか!?素人が、お手軽に焼いちゃったりしていいものなのか!?
 しかし、実物が目の前にある。イギリスパン。山型の食パンである。素人が、食パン焼いていいのか!?
 釈然としないまま、早速試食する。パンの耳が感じられない。柔らかく、しっとりしている。口の中で、もちもちっとして、噛むほどに、ほんのり甘い。うまい。うますぎる!
 友人は、淡々と手順を説明する。イーストの発酵って、難しいはずだ、と抗議すると、電子レンジの発酵機能はよくないんだ、簡単だよ、と笑い飛ばし、「やさしいパン作りの本」を貸してくれた。これはもう、焼いてみるしかないだろう。

 初めてのパン作りである。精神を統一し、白いエプロン、コックさん帽子、焼き立てパンのえも言われぬ香りを、しばしイメージする。気分は、この道20年である。
 粉、イーストなどの材料にぬるま湯を加えて混ぜていく。その後、うんとこしょ、の手ごね作業である。ひとまとめにした生地を、肩の高さからボウルに叩き付ける。びたん。生地を二つ折りにして持ち上げ、また叩き付ける。びたん。餅つきみたいで、なかなか楽しい。ぼろぼろの生地が、次第になめらかになっていく。繰り返すこと、50回。お餅と化したパン生地は、両手で引っ張ると、アメーバのように細かな網目状に伸びていく。

 グルテンは、いい仕事をした。次はイーストの一次発酵である。なんのことはない、ぬるま湯で湯煎するのである。待つこと1時間。開けてびっくり、生地は、倍ほどにふくらんでいる。ドライイーストが、眠りから覚め、炭酸ガスを発生させたのである。お餅が、しっとりしたお饅頭にかわった。
 これに濡れぶきんをかけて12分休ませ、型の片側に寄せて優しく収納し、二次発酵させる。70度のお湯で蒸し風呂にするのだ。待つこと28分。生地は、型一杯にふくらんでいる。全く、堅実な働きぶりで、心底、イーストがいとおしくなる。

 そうか、そうか、と目を細めつつ表面に霧を吹く。やっとオーブンの登場だ。

 鼻歌なぞ歌いながらオーブンにいれ、タイマー25分。もはや勝ったも同然である。とにかくレシピ通りにイーストは発酵を重ねたのだ。
 そんな功労者たるイーストだが、オーブンの中、生地が70度を越えると、静かにその役目を終えて、永い眠りにつくのである。イーストよ、ありがとう、その恩、忘れはしない。

 パンが焼けていく。ああ、パン屋さんのにおいである。食べ物屋の匂いは数あれど、これほど平和な匂いは他になかろう。主食たるもののみが持つ、温かい母のような慕わしい匂いである。
 チン。ついに、出来た!初めてのパンである。焼きたては、更に柔らかく、バターの香り、こうばしく、絶品である・・!よかった。
 まるで、化学の実験のような3時間であった。粉、水、細菌が食料へと変貌を遂げる一部始終を目撃した。最初のパンは、どんな偶然から生まれたのだろう。遠く古代へ思いを馳せた。

教訓

 イースト菌は、人類のおともだち

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たぶん12万