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第20話 ミルキーはママの味

 子どもがミルキーをなめていた。
 「ミルキーって、ママの味じゃないよね?」ふと思いついて、パートナーに言った。不意の問いにパートナーは、子どもに諭すような口調でのたまう。「ミルキーってミルクでしょ。ミルク出すのはママでしょ。だからミルキーはママの味なんだよ。」「じゃあ、ミルキーのママは乳牛なわけ?」「まあ、そういうことになるかな。」

 釈然としない。なにかが違う。ママの味なわけがない。
 だって、そう、”ちちくさく”ない。ミルクがママの味なら、もっとミルクミルクした味で良いわけで、それなら牛乳に甘味を加えた原始的な味で良いわけで、わざわざ香料でミルクの”ちちくささ”を消したりする必要はないはずである。
 香料・・・どうやら秘密はここにあるらしい。鍵はバニラである。

 勿論、たいていの子どもはミルキーが好きである。ミルキーだけでなく、カスタードプリン、ビスケット、クッキー、アイスクリーム・・・子どもが喜ぶありとあらゆるおやつに、バニラは登場する。子どもはバニラの香りが好きなのである。
 かくいう私も、バニラが好きで、子どもの頃、台所からバニラエッセンスを持ち出して、よくままごとに使ったものである。甘い香りは、それ自体、とても美味しそうに思えて、なめてみた。実は、ひどく苦いのである。あまりに意外で、子供心にだまされたように感じ、失望したものである。色も黒い。バニラは植物から抽出されたエッセンスなのだから、考えてみれば美味しいはずがないのである。しかし、その香りは、大好きなお菓子達の味覚を呼び覚まし、優しく幸せな、甘い記憶で包み込んでくれるのである。
 そう、それはちょうど、幼い頃、母に甘えたおぼろげな記憶を、大人の頭で更に美しく、感傷的に認識するように。

 香り一つで、そんなドラマティックな事が起きるのかと思われることだろう。香りは馬鹿にしてはいけないものである。

 ある日、私は牛乳寒天を作っていた。粉末寒天を牛乳で煮とかし、砂糖を入れる。ふきこぼれないように木ベラでかき混ぜて、仕上げにバニラを1、2滴。その瞬間、そこにあるのはもはや牛乳寒天ではない。なんと名付ければいいのか分からないが、とにかく横文字の、ブルーベリーソースだとか、ミントの葉っぱだとかが添えられるような、立派なデザートになってしまうのである。
 バニラの魔法である。
 ミルキーは、母の味でも、おふくろの味でもなく、更に甘く現実離れした、”ママの味”だったのである。

教訓

 バニラを香水代わりに使うと、しみになるぞ!

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