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第26話 オリジナル・メニュー

 さて、今夜は何を作ろうか。

 家事を受け持って7年。毎日毎日繰り返される自問自答である。

 結婚当初の不慣れな時期も、つわりで食事が喉を通らなかった時期も、乳飲み子を抱え、睡眠不足でもうろうとしていた時期も、離乳食と普通食の2通りの食事を考えなければならなかった時期も、とにかく家族の健康を保つべく、日々、台所に立っていた。そして現在、腕も磨かれ場数も踏んで、料理人として、脂の乗り切った時期といえよう。

 しかし、私は自分を知っている。誰に指摘されずとも、自分の欠点はよくわかる。料理人として、致命的に欠けているものがある。それはオリジナリティーである。

 勉強もそうだった。基本問題、応用問題は完璧に出来ても、発展問題には手も足もでないタイプである。突飛な発想とか、奇抜なアイディアとかと無縁で、何事も堅実で無難で、面白味がない。失敗を恐れて冒険をしない。

 このままで良いのか。いやしくも料理エッセイなぞというものを、世に送り出していながら、日がな無難なお総菜を作っていて良いのか。いんや、よくない。新しい味、オリジナル・メニュウ・・・心にしこりを抱えたまま、なすすべもなく日々は過ぎた。

 しかし、突破口が思いがけないところにあった。姉の家である。出された「じゃがいものチーズ焼き」は、材料も作り方も何の変哲もないのに、予想を裏切ってくれたのである。棒状のじゃがいもに、チーズをたっぷりかけてグラタンのように焼いてある。塩味、チーズ味を想像した私の舌に、それは、ほんのり甘かった。そして、ほくほくするはずのじゃがいもが、しっとり、つるんとしていたのである。

 その秘密は、じゃがいもが男爵ではなく、メークインだったことと、いもを下煮するとき入れる、隠し味の砂糖だった。

 じゃがいもを、塩、コショウ、砂糖と牛乳で柔らかくなるまで煮て、それにトースト用チーズをかけてオーブンで焼くのである。とても簡単なのだが、「じゃがいもは塩味」の固定観念を覆した、私にとって画期的な料理であった。

 そうか、そういうことで良いのかも知れない。

 わさびで食べていたものを、しょうがに替えてみる。タマネギで作っていたものを、長ネギに替えてみる。ケチャップでなく、マヨネーズを付けてみる。案外、そういうことから新しい味の発見があるのかも知れない。

 そう思いつつも、パートナーが得体の知れない、しかも高い調味料を買ってきて、変な匂いの料理を作り、子供に嫌われているのを見ると、やはり、安全で安心な食べ慣れた味に、ついついしがみついてしまうのである。

教訓

 清水の舞台から飛び降りなくっちゃ・・・

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