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第30話 絵本のケーキ

 我が家で子どもに唯一与えている知育教育は、読み聞かせである。子どもが片言の頃から続けている。毎晩、寝る前に布団の中で一冊か二冊、絵本を読む。その日一日、どんなに怒鳴ったり、泣かれたりしても、絵本を読むうちに気持ちは物語の中に入り、声音は自然に優しくなり、一日の最後を穏やかな「おやすみ」の言葉で締めくくれる。子どもにとっても親にとっても、有り難い習慣である。

 貧乏で暇のある我が家では、もっぱら図書館を利用する。2週間で4冊。子どもに自由に選ばせると、どんな基準で選んだのか分からないような、種々雑多な絵本にお目にかかれる。細かなエッチングの暗い挿し絵のついた西洋の本もあれば、見開き2ページに5文字しかないシンプルなものもある。子どもは、目に付いた本を考えなしに手にしているように見える。

 「クマくんのハチミツぶんぶんケーキ」

 これは、子どもが借りた絵本のタイトルである。クマくんが、お手伝いをして手に入れたハチミツで、ケーキをこしらえて、お友達と食べるお話である。ご丁寧にレシピまで載っていて、出来上がりの絵はあったかそうな色彩で、それはそれは美味しそうに描いてある。子どもが黙っているはずがない。
「おいしそうねー、今度作ってみようよ、お手伝いするから。」
 寝る前のひととき、子どもは楽しく幸せな空想にひたる。それはとてもほほえましい光景である。問題は、翌朝もしっかり覚えていることである。

 そういうわけで、休日に「ハチミツぶんぶんケーキ」を作ってみた。バター、ハチミツ、サワークリーム、玉子、薄力粉、ベーキングパウダー、重曹を混ぜて、アーモンドスライスを散らし、オーブンで焼くのである。これが、劇的においしかったのである。ハチミツが生地にしっとり感を与えて、サワークリームの酸味程良く、「やるじゃないか、クマくん!!!」 そんじょそこらのお菓子本より、よっぽどおいしいケーキが出来た。子どもは、クマくんのケーキを現実に食べられて、しかも、とびきりおいしくて、大満足である。そして私は、子どもの頃の、決して叶わぬ夢を思い出す。

 それは、トラのバターで作ったホットケーキである。いわずと知れた、「ちびくろサンボ」。4頭のトラが互いの尻尾をかんで追いかけっこをするうちに、溶けてバターになってしまう。そのバターで作るホットケーキに、幼い私はどれほど憧れたことだろうか。 叶わぬ夢ほど美しい。いつか子どもも絵本の中に、見果てぬ夢を追うのだろう。絵本のケーキに舌づつみを打つ想像力は、子どもの心を、そして後の人生を、この上なく豊かにしてくれるだろう。

教訓

 絵本には教訓がいっぱい。

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