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第39話 初めての手料理

 パートナーに初めて食べさせてあげた手作り料理はなんだろうかと、想いをはせてみる。昼下がり。こきたないアパート。立て付けの悪い引き戸。冬にはこたつに変身するテーブル。その上に、とり釜飯と甘辛く煮たガンモドキ。それも、昨日の夕飯の残り物である。他にも残り物があったとは思うが、悲しいかな、副菜のガンモドキしか思い出せない。
 そこには、トキメキとか、緊張感とか、そういったものは微塵もなく、空腹とか、ほのぼのとか、ごく普通の昼メシがあるだけである。

 こんな情けないことだっただろうかと、必死に想いをはせてみる。
 逆に、初めてパートナーの手料理を食べたのは、誕生日のレモンパイ。友人と分けて食べろといってくれたでっかいやつを、うれしくて一人で食べ尽くしてしまった。こういう感情が、私の手料理にもあった"はず"である、と悩んでみると、喜ばしくも思い出した。ビーフステーキ。トキメキ付きのゴージャスで健全な昼飯である。

 とはいえ、普段からステーキを食べつける習慣のなかった私には、ちょっとゴージャスなことを考えたとたんに、困ったことが色々と起こる。まず、皿がない。大きな皿と言えば、カレー皿で深さがある上に、お世辞にもこじゃれたプレートとは言いがたい代物。さっそく皿屋に走る。1枚300円だかのお買い得品を、2枚買い求める。やたらとでかい。でも、格好だけはつけられる。ふむふむ。

 次には、牛がない。鶏豚には非常にお世話になっているが、牛は、お世話したこともお世話になったこともない。近くの肉屋に走る。「米沢牛」なるカンバンのそれらしい肉屋で、素直に相談してみる。察しの悪いご主人でも、私が100g1万円の牛を買わないのはすぐに分かったらしく、100g800円のランプ肉と言うお尻の肉をすすめてくれた。赤身で脂が少な目なのが良いとのこと。お皿に続いて、肉の方でも少しウンチクが語れて格好がつく。会話もビヨンビヨンに弾むというものである。
 おすすめの牛を200gくれと言ったら、
「そんなの切ってみなければ分からない。」
と抜かして、奥の方からサラシに巻いた固まり肉を取り出して切り始めた。
 いきなり緊張が走る。いつ、500g4000円になりますと言われるのかと、ドキドキしていたが、さすがにプロである、2000円でそれなりに格好のつく牛をくれた。心底ほっとする。いらぬトキメキのおまけ付きであった。

 初めてではあったが、ステーキを焼く方は、本を見ながら無事に、肉汁したたるうまそうなやつができあがった。それよりも、スープやら付け合わせやらの方が大変だったりする。
 それもこれも、パートナーの前で格好いい所を見せないと、将来にかかわるのであるから必死である。きばった甲斐もあって、パーティーは大成功。おいしく楽しい時間を過ごし、将来の方にも大きな支障をきたすことなく、無事本日にいたっている。

 再び想いをはせてみる。これだけのことをしたのだから、よっぽど強烈に記憶に残っていても良いはずである。しかし、どうしたって最初に、ガンモドキを思い浮かべてしまう。なぜなのか、いまだに思い出せない。
 そんな話をパートナーにすると
「そこんとこ、なんとかならんか!!!」
と、大いに抗議された。う〜ん、ごもっとも。

パートナーのひとこと

 ガンモドキはよせ。

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