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第53話 ピザは忍耐

 実はアンチョビを買いたかったらしいが、パートナーが買ってきたものはオイルサーディンだった。どちらも小さなイワシを使っているには違いないが、違いは、アンチョビは塩漬け発酵、オイルサーディンは塩油漬けである。アンチョビの方が、独特の癖のある味である。
 間違って買ってきてしまったものでも、有効利用を図りたい。だけんどもしかし、オイルサーディン料理といっても、とんと思い付かない。インターネットで検索しても、それらしきものも出てこない。日本の食卓に常日頃のぼるものではないから、当たり前といえば当たり前。となると、何かこう、すごく順番とか考え方とかが間違っているような気もするが、アンチョビの真似をするしかあるまい。アンチョビ料理・・・ピザ。
「ピザ? た〜べ〜る〜!」
と、元気の良い子供の声。これからピザ作るってか?

 ピザといえば、宅配か冷凍かイタリアンレストランと相場が決まっている。手作りといわれても、私の頭に思い浮かぶのは、ピザの生地を薄く丸く伸ばすために、皿回しよろしく頭上高く放り投げる姿。テレビで見たのだが、タマネギ切りで指まで切る私のこと、そんな職人芸は自信がない。

「ちっちっちっ」
 なっちゃいないな的パートナーの視線。既にピザ作りの経験者らしく、先輩風をびゅーびゅー吹かせている。こういう時は、頭を低くして風がおさまるのを待つのがよろしい。
 た〜べ〜る〜野郎も、
「私が作る!」
と、きかない。こういう突風も、頭を低くしておさまるのを待つのがよろしい。

 ピザ作り、パートナー曰く、「極意は忍耐」とのこと。私の中の、厳しい修行で培われる皿回し芸は音を立てて崩れ、きねを振り下ろす餅つき姿が浮かんでくる。う〜む。
 実際にやってみると、餅つきそのもの。小麦粉、イーストなんかを水で練ったピザ生地を、たたきつけてはこね、たたきつけてはこねる。餅をつく役とこねる役を一人でこなしている感じ。これが、まず10分続く。これにオリーブオイルを練り込んで、さらに10分こねたたき。子供も「がんばる!」とボツリとつぶやくのみで、作業に集中している。な、なんだか怖いぞ。
 たたいているうちに、生地がだんだんと、もちもちっとした良い手触りになる。忍耐の勝利。あま〜い香りも立ち上る。発酵させれば、生地完成。これを麺棒でま〜るく伸ばして、ハムやらチーズやらを散らす。う〜む。なんだかトッピングが足りない。何かないかなあ。
「オイルサーディンだ、オイルサ〜〜〜〜ディン!」
 竜巻がおこる。
 おおお! そうだった、そうだった。主役をすっかり忘れるところだった。小さな缶に油まみれのオイルサーディンを、手で適当にちぎって、ばらばらっとのせ・・・おや〜? ハムやらタマネギやらで、ぜ、全部はのり切らないぞ。ま、まったくもう。

 オーブンで焼きを入れること30分。チーズ少な目にもかかわらず、ボリュームたっぷり。オイルサーディンの塩味もころあい良く、食べきった後には、しばらく動けないくらい満腹満腹。
 やっぱり、肉体労働の後の食事はうまいね!

パートナーのひとこと

 実は。もう一缶あるんだ。

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