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第61話 職人芸にはほど遠い

 皆さんは、葛きりというものをご存知だろうか。葛から取った澱粉で作った、糸こんにゃくのような歯ごたえと、ところてんのような透明でつるつるっとした舌触りの和菓子で、蜜をかけて食べる。地域によっては、とてもなじみがあるものなのかも知れないが、私は今までに2回しか食べたことがない。

 こんな感じの、3時のおやつにちょっと頂きましょうとはいかない、なじみの薄い葛きりを、わざわざ葛粉まで買ってきて作ろうという気になってしまったのは、厳粛で儀式のような葛きり職人の芸をテレビで見てしまったからである。長い取っ手のついた丸く浅い皿のような鍋に、水溶き葛粉を流して薄く広げる。取っ手を持ったまま湯煎すると、白く濁った葛粉が、火が通っていくにしたがって、少しずつ少しずつ透明になっていく。仕上げに、鍋ごとす〜っとお湯にくぐらせると、濁りがすっと消えて、どこまでも透明でぷるぷるで弾力のある葛きりになる。細切りにして、蜜をかければ、喉ごしつるつるの涼味あふれる和菓子の完成。
 この職人芸、たぶんにライティングやカメラワークといった演出によるものだとは分かっていても、張り詰めた空気の中で黙々と行われる無駄のない一連の作業、息を呑む緊迫感、職人が真摯に仕事に打ち込む姿、こういうのにからきし弱い。憧れてしまっちゃったりする。

 私にはもちろん実力はないが、何しろ憧れているのだからすぐに真似をしたがる。買ってきた葛粉が、トップブランドの吉野葛と言わないところは、一応奥ゆかしい。だけんどもしかし鍋がない。そんなこと、葛粉を買う前に気がついて欲しいものであるが、憧れている物には、基本的に猪突猛進なのだ。

 このくらいのことでは、あきらめない。葛きり鍋に一番似ていそうなカレー皿を選び、水溶き葛粉を流し込む。湯煎・・・取っ手がない。う〜む。ようは、火を通せばよいのだ。皿ごと蒸してみる。仕上げの「鍋ごとす〜っ」は、やけどをしてしまうので、涙をのんであきらめるしかない。

 10分蒸しても一向に透き通らない。火が通ればどこまでも透明で弾力のある葛きりになるはずである。だけんどもしかし、透き通ってやろうという気配すら感じられない。何とも、根性のない葛粉である。普通10分も蒸せば、冷凍肉まんだって出来上がるというのに。
 15分。もう我慢できない。細く切ってみる。ぷるぷるというよりは、ブキブキという感じ。あが?
 食べてみる。

 イカ刺し。

 食べてみても、つるつる感が全くない。まだ中の方に濁った固い芯がある。イカ刺しにしても、鮮度が悪い。やはり。充分に火が通っていないらしい。
 火が通ればよいのだ。熱湯でグツグツと煮てやることにする。職人芸からはほど遠いような気もするが、ようやっと透き通ってきた。歯ごたえもつるつるに変わってきたではないか。よっしゃよっしゃ、底力のある葛粉だ。もう、イカ刺しとか、鮮度が悪いとか言わせないぜ。

 すっかり厳粛さとか職人技とかは微塵もなくなってしまったが、最初に葛きりにチャレンジした人だって、絶対同じだったはずだ。さあ、目標はまだまだ先だ。気を抜くな。

パートナーのひとこと

 あんみつの方が好き。

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