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第64話 マグロの角煮

 近所に大衆的な寿司屋があり、魚屋を併設している。この魚屋にいるおばちゃんが、絵に描いたような魚屋のおばちゃんなのである。長靴に白い三角巾、白衣に前掛け、小柄だが、腕っ節の太い、ドラえもんの様なおっかさんなのである。

 小さな店なので、おばちゃんとの距離が非常に近い。おばちゃんにとっては、子どものような年頃の私が、切り身魚を選んでいると、何かしら思うところがあるのであろうか、
「お客さん、今日はマグロのぶつがお買い得だよ」と声をかけてくれた。
 見ると、大きなパックに、マグロのぶつ切りがたくさん入って500円である。
「山かけかー、マグロ丼もいいなー」と思い、手に取ると、おばちゃんがいそいそとやってきた。
「これねえ、時間がたっちゃったんで、加熱用なのよ」
「煮付けですか」
「そう、いったんね、湯がいて、灰汁を取ってね、それから、ショウガ、しょうゆ、酒、砂糖で煮付けんの。煮上がったら、青ネギのね、小口、入れて。」
「おいしそうですねえ」
「おいしーわよーーーお」
 おばちゃんは、にんまりと笑う。
 ここまで言われて「でも、やめとく」と言える度胸は持ち合わせていない。
 おばちゃんは、時間のたったマグロを売れて、ほくほく。私は、
「日本酒かな、日本酒だなあ」と、頭は晩酌モードである。

 帰って早速、教わったとおりにマグロを調理する。実は、煮魚は好きである。難しいかと敬遠していたが、身が崩れようと、尻尾が取れようと、自分で食べる分にはかまやしない、と開き直ってからは、時々作る。加熱時間も短いし、味付けも、味見しながら出来るので、失敗は少ない。
 けれども、魚の善し悪しで大きく味が違うのが難点だ。特に脂ののり。サバもカレイも、パサパサの煮魚は、とても寂しい。

 赤身の魚は佃煮くらい濃い味付けも美味しいが、今日は自家製であるから、甘みを控えてあっさりと仕上げよう。最後に青味を添えて出来上がり。マグロの身の締まった歯ごたえに、ショウガとネギが鮮烈な香りを添える。
 ぬる澗の盃をあおる。くーーー!!!
「オツだね!」
「オツって何?」と子どもに聞かれて「甲乙丙丁って言うグレードがあってね、オツって言うのは2番目、最高じゃないけど、ちょっといい感じってことかなあ」などと講釈をたれながら、日本人で良かったと、しみじみ浸る夜であった。

教訓

 餅は餅屋!魚は魚屋!!

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