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第66話 思いでのあったかココア

 故郷の天気図は雪マーク、コタツの恋しい季節である。
 学生時代のパートナーを思い返すと、コタツ、綿入れ羽織、玄米茶の3点セットが思い出される。仕送り学生の上、怠け者だったパートナーは、質素だった。デートと言っても外で遊ぶ金がなく、私がパートナーの6畳一間のアパートに上がり込み、CDやラジオを聴きながら与太話をしたり、課題のレポートやテスト勉強をしたりしていた。持参しなければ茶菓子さえ、出てこなかったと思う。パートナーのもてなしは、お茶と、スピーカーの位置の良い特等席だけだった。
 パートナーは、アパートの共同炊事場でお湯を沸かし、玄米茶を入れてくれた。飲み干すとつぎ足し、冷めれば入れ替えてくれた。お茶ばかりそんなに飲めたものではない。「もういい」と断っても、「茶碗に触れてるだけでも暖かいでしょう」と、いつもお茶を満たしてくれた。そのうちに二人ともお茶で腹が膨れ、交代でトイレに通うことになったが、心は温かかった。

 ある日、訪ねると、コタツの上にカセットコンロとミルクパンが用意されていた。コタツに入るとパートナーは、「今日はこれがあるんだ」と、純ココアの箱を取り出し、おもむろにミルクを温めはじめた。ミルクが沸騰しないように細心の注意を払いつつ、マグカップに入れたココアに砂糖と少量のお湯を入れ、スプーンで練り上げる。だまにならぬよう、艶が出るまでじっくりと。そして、温めたミルクを少しずつ注ぎ、ココアを溶かし混ぜる。注ぎ口のないミルクパンから、箸を伝わせてマグカップにミルクを注ぐ様子が、妙に理系で、笑ってしまった。こうして一人分ずつ丁寧に作ったココアを、私に先に渡し、「温かいうちにどうぞ」とパートナーは言った。しかし、ココアを口にするまでもなく、私はぽっかぽかに暖まっていたのだった。

 こうして、4畳半フォークのごとき生活感あふれるお付き合いをし、世間のバブリーな交際を経験しなかったせいか、結婚後も何ら待遇の変化を感じないままに現在に至っている。怠け者だったパートナーは、会社で死ぬほど働かされて、午前様もしょっちゅうだが、相変わらず確かな温度を持って、そこにいる。そしてその愛情を、私だけではなく、おぽんちな子ども、川で捕ったモツゴ、ドジョウ、カマツカ、貰い物の金魚、熱帯魚のコリドラス、プラティー、テトラ、水草、観葉植物、サボテンなど、多くの生き物に注いでいる。
 これ以上、パートナーの愛情の対象が増えぬよう、週末は久しぶりに、ミルクココアを作ろうか。

教訓

 お付き合いは割り勘で。

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