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第68話 冬のコーヒー物語

 公園にある小さなカフェ。冬の冷たい空気を透過して降り注ぐ日差しを、ガラス越しに浴びる。ガラスの向こうでは、子どもとパートナーが凧揚げに熱中している。輝く笑顔の子どもに応える、パートナーの暖かな笑顔。ふと、私の視線に気付いた子どもが手を振る。軽く手を挙げて応えながら、薫り高いコーヒーを口に運ぶ。・・・至福のひとときである。

 コーヒーを飲むようになったのは、そんなに昔のことではない。
 ごく小さな頃にコーヒーは、レコードの中の飲み物であった。「一杯のコーヒーから夢の花咲くこともある・・・」古い流行歌に歌われるコーヒーは、想像力をかき立てた。「モカの姫君、ジャワ娘」と歌われたそれに、私はどんなに憧れたことであろうか。
 小学校に上がる頃になると、いとこの写真館で、3時の休憩時間に叔母がサイフォンでコーヒーを煎れてくれるようになった。
 家では見たことのない道具の数々。アルコールランプで温めたお湯がサイフォンの中を遡る不思議。時間を見計らってランプを外すと、澄んだコーヒーが流れ落ちてくる。もはや魔女の所業である。目をまん丸くして見守る子どもたちに「子どもはミルクと砂糖入りね」と、ブラウンシュガーをたっぷり溶かし、エバミルクを入れてくれた。
 はじめて飲むコーヒーは、甘く、ほろ苦く、コクがあり、非常に重厚なものだった。ストレートで飲む大人たちが、なんだか遠く思えた。

 現在、胃弱のパートナーは家でコーヒーを飲まない。それで私は、自分専用のコーヒーメーカーを持っていることになる。安価で手入れが楽なドリップ式。高級な豆を買いはしないが、適度に酸味、苦みがあり、濃いめの味を好む。普段はインスタントで済ますが、一人の時や休日の朝に自分だけのために煎れ、ほんのちょっと贅沢な気分を楽しんでいる。
 嬉しいことに、子どもがコーヒーメーカーの使い方を覚え、時々サービスしてくれるようになった。臆病者で、一人で火を使うことは出来ないが、「水は2の線、粉は3杯、ミルクをチョーーーッと」と、私の好みを覚え、お気に入りのカップに、お菓子など添え、トレーで運んでくれるのだ。
 そんなとき私は、昔のコーヒーへの憧れを思い出し、子どもをお抱え魔法使いにする夢を、・・・夢を見るのだ。

教訓

 やっぱり欲しい、サイフォン式!!

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