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第69話 チョコレートケーキバトル

 パートナーも子供も、私には負けたくないと常日頃思っているらしい。例えば、パートナーといえば最近はまっているカードゲームで、私に勝ち越すまで続けたがるし、子供といえば確実に勝つようにと、破壊力の強いカードを抜けだの意地悪カードが入ったいたら勝負しないだのと、やたらと注文が多くて困る。そんな挑戦的な家族に目にもの見せてくれるチャンスが回ってきた。

 ある日会社から帰ると、パートナーが1枚の写真を見せながら私にブーブー文句を言う。あらぬ方向をしっかりと見つめながらも、決めのポーズを取っている子供の写真。腰に当てていない方の手には黒い固まり。何だこれは?
 ブーブーいわく、子供にチョコレートケーキを作ってやろうとスポンジを焼いたものの、膨らまずに巨大クッキーになってしまい、子供がバカにしてまるかぶりしたんだそうな。そして、これがバカにされた証拠写真だというのだ。

 証拠写真とブーブーを突きつけられた私、ふたりにちゃんとしたチョコレートケーキを食べさせてやりたい。とは半分ウソで、何かと挑戦的な家族に、今回はケーキバトルという逆挑戦状をたたきつけてやりたい。願ってもないチャンスである。

 勝負はズバリ、チョコレートケーキのスポンジの高さ。お手本は約12cm。パートナーの作品を物差しで測ると5cmであるから、まあ、なんというか、子供の気持ちも分からないではない。

 チョコレートケーキの作り方自体には、特別なことは何もない。玉子の黄身を泡立て、溶かしたチョコレートを入れて混ぜ、ふるいにかけた小麦粉を入れてサックリと混ぜ、泡立てた玉子の白身をサックリ混ぜ、焼く。
 だけんどもしかし、パートナーの名誉のために言っておくが、実はこれが難しい。チョコレートが玉子の泡を消してしまうし、よく混ぜないとマーブルケーキになってしまう。これを手早くやれと言うのだから、それはそれはうまくいかない。

 言い訳はこのくらいにして、次の休日にさっそく勝負開始。玉子を泡立てた次は、難関のチョコレート。とろりと溶けてツヤツヤ光るチョコを、静かに静かにたらす。とたんに、ブチブチとはぜる音。泡が消えていく。一緒に、気合とか自信とか気迫とかも消えていく。混ぜる手が重い。粘り着くような感触に、手も重ければ気も重い。色と香りがよいのだけが、救いである。
 他の材料も混ぜた生地をケーキ型に流しこんで、オーブンレンジに投入する。あとは運を天に任せるのみ。

 しばらくして、い〜い匂いが漂ってくる。のぞいてみるとちゃんと膨らんでもいるようだ。いい感じいい感じ。スポンジの膨らみと共に、勝利へと胸も膨らんでくる。ふひひひひ。パートナーも、膨らみ具合を見ては、「う〜む」とうなっている。ぐひひひひ。
 焼き上がった。だけんどもしかし、まだ安心してはいけない。スポンジをペタンコにする冷やしがここから始まる。型から抜いて、そ〜っと置く。

 なんとも、合格発表を待つ受験生のような気持ちで約2時間。そっと出来をのぞいてみる。
 が〜っ! 見事に縮んでいる。しかも、下ぶくれ気味に潰れているのが遠くから見ても分かる。これは微妙な勝負になりそうだ。同じ物差しをおそるおそる当ててみる。

判定、8cm。

 ふ〜う、辛勝である。というか、どんぐりの背比べというか、目くそ鼻くそを笑うというか。パートナーはややむくれ気味であるが、それでも勝ちは勝ち。まあとりあえず、面目を保つことだけはできたような。ふへ〜〜。

 ドングリ勝負はもうおしまいにして、さっそく食する。冷やしの間に作っておいた真っ白な生クリームを茶色のチョコレートケーキに添える。
「いただきま〜す!」
 うんま〜い。
 ケーキでもクッキーでも、うまいものはうまい。さっきの敵も今は友。うまいものをみんなで食べれば、幸せ幸せ。

子供のひとこと

 バカにしたんじゃないよ。一度、スポンジのまるかぶりというのをやってみたかっただけ。

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たぶん12万