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第76話 仙台風雑煮

 「ハゼの焼き干し?」
何かと気ぜわしい師走。正月料理の材料が揃うスーパーで、奇妙な物体に出くわし、思わず足を止めた。ハゼである。焼いてある。干してある。こういうデザインの物を、民芸店などで見かけたことはあるが、実物は初めてだ。エラの張った大きな顔で大口を開け、身体の真ん中あたりを干し柿のように縄に括られて整列している5尾のハゼ。ファンキーである。これは一体なんなんだ?
 よく見ると、近くにビラが貼ってある。「仙台雑煮に挑戦してみよう!!」
どうやら、お雑煮の材料であるらしい。我が家の雑煮は、鶏肉と、人参大根の短冊切りに、なるとや三つ葉を乗せた醤油仕立ての物であるが、今年は仙台で正月を迎える。土地の雑煮を食べてみるのも一興か。
 そうと決まれば、ハゼ、ゲット。ハゼ類は頭が大きく、変な顔をしていて食べるところの少ない魚だが、初心者にも容易に釣れたり、丸ごと唐揚げにすると美味いなど、なかなかに愛嬌のある魚でもある。「顔の悪い魚は美味しい」という塩竃生まれの父の言葉を思い出す。海辺の街の正月だ。新年早々の新たな挑戦に期待は高まる。
 帰宅して、「仙台雑煮」の作り方を探す。何件かあった作り方から、もっともポピュラーと思われるレシピを採用した。
 材料は、ハゼの焼き干しの他、ゴボウ、人参、大根、かまぼこ、凍み豆腐、厚焼き玉子、芹。案外地味な材料に、イクラを添えて、ゴージャス感を出してみる。
 ハゼは水から煮て、出汁を取る。十センチだったハゼが水を吸って、十五センチに再生する。そして立ち上る焼き魚の匂い。「う〜〜〜〜む、これは・・・」酒と醤油、塩で味を調えて、「おひきな」と呼ばれる、ゴボウ、人参、大根を細く細く千切りにした物を加えて火を通し、椀に野菜を敷き、焼いた切り餅を入れ、ハゼを乗せ汁を注ぎ、かまぼこ、イクラ、芹、下味をつけた凍み豆腐、厚焼き玉子の千切りなどを飾る。さて、お味は?

 「魚臭い・・・」子どもが顔をしかめる。
 うむ、魚と言っても、鰹節や煮干しとはまったく違う風味である。言ってみれば、脂ッ気の全くない焼き魚を醤油で煮たような・・・。甘みの入らないシンプルな味と脂気のない汁が極めて物悲しい。ふと頭に浮かぶ情景は「おしん」。雪の中、おっかあの乗った船を追って走っていた幼い日の小林綾子。正月の食卓を飾るには、あまりにも寂しい味わいである。「暗い・・・暗いぞハゼ」にらみつける私に、ハゼが大きな口で嗤う。
「これはこれで、美味いと思う」とはパートナー。きっと小さいときから慣れ親しんだ仙台市民には、郷愁の味なのだろう。
 そう、田舎の伝統料理には、お世辞にも美味しいとは言えない物もある。仙台雑煮もそういう物なのか、はたまた料理人の腕が悪いのか、はっきりさせるために、本家・仙台雑煮を食する日が待たれる・・・。

教訓

 ハゼは唐揚げだっちゃ!

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