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第78話 贅沢な料理

 もったいないもったいないもったいない・・・・・
私の心の中で、もったいないお化けが呟いている。
 鍋の中にはブイヤベースの下拵え。一瓶2000円の高級スパイス・サフランの香りが立ち上り、カサゴの頭が煮えている。
 
 今日はバレンタインパーティー。冬に美味しい魚料理でパートナーを喜ばせようと、メニューを考え、新鮮な魚介類が必須のブイヤベースのために、朝、開店を待ってスーパーに飛び込み、カサゴ1尾、有頭エビ、アサリと香味野菜などを買いそろえた。頭に来るほど高い、サフランも奮発した。
 家に帰って早速、香味野菜とカサゴの頭をオリーブオイルで炒め、水を加え、サフランと固形スープの素を入れて灰汁を取りつつ煮込む。トマトとサフランでオレンジ色になったスープの、その香り、その味たるや・・・これにエビやアサリの旨みが加われば、どれほど美味しくなるんだろう。
しかし、その前に私の前に立ちはだかる一行のレシピ。
「こし器でこす」

 なんと、ブイヤベースは、6種類もの香味野菜を使っていながら、野菜は食べずにスープだけ使うのである。なんてこった!!

 自慢ではないが、私は締まり屋である。普段の買い物はチラシを見ながら特売の品を選び、同じ品なら、少しでも安い店で買う。景気に関わらず、これは生まれ持った性分なのだと思う。
 しかし、ここぞというときに、お金をかけるのはよい。たまの外食やホームパーティーで、美味しいものを食べるのは心の栄養と思うからである。だがしかし、美味しく食べられるものを捨てるという所業には、ものすごい抵抗感があるのだ。
 何とかこの野菜たちを救いたい。濾した後の野菜を、そうだ、明日の朝にスープにしよう。そうと決まれば、ためらいはない。こし器にキッチンペーパーを敷き、スープを濾していく。現れたのは黄色の脂の浮いた、黄金色のスープ。最後の一滴まで大事に絞っていく。後はこのスープに、エビ、カサゴの身、アサリを入れて、火が通れば完成である。さて、野菜の方は・・・?
 やややっっっっ!?カサゴの頭が粉々だあ!野菜が骨だらけだあ!絞りすぎた野菜は、もはや原形をとどめていない。
 ぷちっ・・・張りつめた神経の糸が切れる。体力と気力の限界。無念である・・・・・

 出来上がったブイヤベースは、エビのミソのダシやアサリの旨み、カサゴの脂が、スープにコクと深みを加えて、色も鮮やか。最上級の味わいである。なんて、なんて贅沢な料理なんだろう・・・軽く目眩を感じた私は、よく冷えたワインでしたたか酔って、とっとと現実から逃避するのであった。

教訓

 北京ダックは食べられない。

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