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第84話 サンマの刺身

 この夏は最悪だった。長梅雨、宮城県北部連続地震に異常低温。農作物は大打撃、海の家も閑古鳥が鳴く。シトシトじめじめと小雨が降り続き、洗濯物は乾かない。低温、湿気による肩こり頭痛のため葛根湯が手放せない。身体にカビが生えそうな、陰気な夏。
 しかし、悪いことばかりではない。海の水温が低かったために今年のサンマは脂がのって大きく、豊漁だという。地域の情報番組ではこぞってサンマを取り上げる。
「サンマはいいよな〜〜〜食べるところが多くて・・・」釣りをするようになってから、廃棄率の少ないサンマを見直している私は、早速、近所のスーパーにサンマを買いに出かけた。折しも今日は特売日。北海道で水揚げされたサンマが1尾50円。10尾でなんと398円である。やや小振りだが、刺身用で鮮度は申し分なく、とにかく安い。これは、日頃出来ないことを試してみるチャンス。サンマの刺身に挑戦だ!

 言うまでもなく、腕は未熟だ。道具もない。魚の皮を剥ぐのは、これが初めてときたもんだ。せめてもの気持ちで、文化包丁を研ぐ。刺身は鮮度が命、これからは時間との戦いになる。まず鱗を落とし、頭を切り取る。腹をかっ捌き、内臓をかき出し、3枚に卸し・・・この時点で、中骨に大量の身が残される・・・あばら部分の骨をこそげ取り、ヒレを切り取り・・・ああ、幅も長さも厚みも減っていく・・・皮を剥ぐ・・・身の両端がボロボロになる・・・最後に小骨を抜き取る。・・・小骨にくっついて身が取れていく・・・。
 なるべくべたべた触りたくない。水にも浸けたくない。空気に触れさせたくない。しかし、血と脂と内蔵にまみれて作業はいちいち中断し、時間だけが過ぎていく。
 「小骨取り、する」と子どもがお手伝いを買って出た。やれ有難や、頼んだよ。
 サンマ5尾、サクにするのにどのくらい時間がかかっただろうか。出来上がったサンマの刺身はすっかり生ぬるくなっている。ラップをし、しばし冷蔵庫で冷やす。もはや、鮮度は期待できないだろうが、せめて臭み取りに薬味をたくさん用意しよう。子どもは生姜をおろし、私は小ネギを刻む。
 食事の支度も整い、いよいよ刺身の登場だ。とっておきの醤油を注いで、「いただきま〜〜〜す」どうよ?
「うんま〜〜〜〜〜い!」
 おお、さっきまでの血生臭さ、魚臭さがウソのよう。純粋な魚の美味さとでも言うのか、脂の甘さ、青魚の食感、味。「あ〜〜〜DHAだ〜〜〜」見た目はぼろぼろだけれど、普段刺身を好まない子どもも、ショウガ醤油で目を細め、ポン酢を付けては目を輝かせ、まくまく食べている。苦労の甲斐があったというものだ。ついつい出てくる「浦霞」の辛口。旬のものを味わう喜びが、ここにある。「秋は良いなあ〜〜〜」
 それにしても、塩焼きにすれば、可食部分は3割増しであったろう。
「こんな贅沢もある・・・。」大衆魚と向き合いながら小市民は、満ち足りて盃を干すのであった。

教訓

 小骨取りは毛抜きじゃだめだ。

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