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第86話 緑の小豆

 「いつ煮るの?」「そのうち」
 それは旅先でパートナーが購入した豆である。見慣れた小豆より一回り小さく、緑色をしていて「珍しい緑の小豆」と書いてあり、500グラムほど入っている。こういう馴染みのない物が、いつしか仕舞い込まれ忘れられて賞味期限が過ぎるのはいつものことだ。新しいうちに食べてやろうとした私に悪気はなかった。

 とりあえず、豆を洗い、裏書きに書いてあるとおりにたっぷりの水に「一昼夜」浸ける。最近の小豆は水に浸けないでそのまま煮る物があるが、「一晩」でもなく、「一昼夜」というあたり、手強い感じが否めない。「又面倒な物を・・・」と、パートナーを恨みたくなる。

 さて、一晩水に浸けた小豆を見てみると、水を吸ってよく膨らんでいる。「げ」と怯むほど大量になってしまった。水を足してそのまま更に様子を見る。なにしろ「一昼夜」の指示なのである。
 夕方になり、水煮を始めようと鍋を覗いた私は目を疑った。「発芽している!?」小さい芽が殆ど全ての豆から出ているのだ。
「芽を出すときに有毒物質を出すのは、じゃがいもだけだっけ?」
 一抹の不安を抱えつつ、水を換えて煮始めようとすると、捨てた水の中にふわふわと漂うクラゲのようなモノがある。豆の皮である。発芽に伴い皮が破れ、外れて浮かんできたのである。
「・・・むう」
 食感が悪くなる、と浮かんできた皮を取り除こうとすると後から後から湧いて出る。意地になって鍋の底からかき混ぜ、皮が浮かんだところをすくい上げては又かき混ぜ・・・これを延々続け、ほぼ、9割方豆皮を滅ぼしたところで火にかける。
「観念しろ」
 気持ちはいつになく荒んでいる。
 アクを掬いつつ煮ていると、水を充分吸い皮も取れた豆は簡単に柔らかくなる。
「口ほどにもない奴らだ」
 しかし家にある一番大きな鍋の七分目まで煮豆に満たされ、かき混ぜる腕は重い。家の中のありったけの砂糖を投入してもなお足りない。
「今日はこのぐらいで勘弁してやる」

 そして次の日、2キロの砂糖を買って帰り、いよいよ仕上げである。砂糖と塩を加えて味を調え、後は煮詰めて出来上がりだ。子供が喜び
「白玉団子を作るね!」
と言い出す。いろいろ面倒を掛けさせられたが、結果がよければそれで良い。しばし手を休め、茶など飲んでいると、
「なんか、焦げ臭い」
と子供。「え!?」急いで火を止め鍋を覗き込むと表面は何ともないが底が鍋にこびりつき、焦げている。そしてその焦げ臭さはあんこ全体に及び、消し去ることは出来なかった。
「しまった、目を離すんじゃなかった。」
 ちょっとの油断が命取り。覆水盆に返らず、である。大鍋一杯のあんこを、涙を呑んで捨て、焦げ付いたナベをクレンザーでゴシゴシと磨く気分は最低だ。
 このまま行けば、わたしもうじきだめになる。名誉挽回のため、「40分で作れる電子レンジパン」を作って成功を収め、精神の安定を図った私だった。

教訓

 パートナーが買った怪しいモノには二度と二度と手を出さない!!

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