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第89話 走馬灯とオムライス

 小学校の先生と縁がある、らしい。決して、子供が問題児なわけではない。あまり構えずに、子供の事や学校のことを話すからであろう。先生と親、お互いに建前でない情報交換ができる。もっとも、そん損得ずくでもなく、ただ、学校の話題を肴に、おいしいお酒が飲めるということなのだが。

 そんなことで、子供をほったらかして先生とお酒を飲むことになった。子供の夕食を作り、ずらかることにするために、リクエストを聞く。

「オムライス」

「そういえば昔、オムレツ極めたんだよねえ。」と、パートナー。
 私が、オムライス作りで格闘したことが話題にのぼるやいなや、本人の意向は全く無視されたまま、いつのこまにか、パートナーがケチャップライス、私がオムレツを作ることになっていた。まあ、自転車と同じ様に、体で覚えたことは、簡単には忘れないというから、オムレツだって問題ない。
 ふと、あの厳しいオムレツ修行が走馬灯のように思い起こされる。

 全ての始まりは、伊丹十三監督作品「たんぽぽ」という映画であった。ラーメン店を中心に、料理・食べ物に題材にしたコメディー映画だ。とにかく料理がきれいにきれいに撮れている。中でも感動したのが、オムライス。それまで、オムライスは、ケチャップライスを薄い玉子焼で包んだものだとばかり思っていた。だけんどもしかし、映画のそれは、オレンジ色のつやつやライスに、ラグビーボール形のオムレツをのせる、見たこともないものだ。ナイフで真ん中からスッと切ると、黄色いフワフワオムレツが、とろーっとライスに広がる。黄色い花が咲くようにオムライスができあがる様は、芸術的であった。

 これを極めるべく、すぐさま修行を開始した。玉子2個をかき混ぜて、熱したフライパンに流し込む。瞬間に玉子がカサカサに焼きついた。フライパンの熱し過ぎだ。カサカサ玉子をコソコソとこそげ落とす。再び2個、お箸でクリクリっとまとめるはずが、ポソボソっと炒り玉子の完成。さらに2個、あり? おろ? おや? ラグビーボールというより雲形定規。いびつである。
 さらにさらに2個。今度はひっくり返らない。前後に揺れるばかりで、裏返るそぶりもない。最後の2個。お箸でまとめて、ほっ!    くるり!
 や・・・った。ついにひっくり返った! この達成感。この充実感・・・

 走馬灯が終わる。ふふふ、ちょっくら作ってやるか。 

 パートナーときたら、すでに、ちゃちゃっとケチャップライス作りに取りかかっている。タマネギ・鶏肉をチャチャンと刻み、フライパンで炒める。タマネギが透き通って、いい香りがたったところで、ご飯を入れて、パラパラッとほぐしながらタマネギと混ぜていく。ここに、ビビビッとトマトケチャップを入れたとたんに、色も香りもがらりと変わる。艶も出て、い〜い感じに変わる。あっという間に、完成。

 あくまでも、オムライス、私が登場しないわけにはいかない。
 適度に熱したフライパンにやや多めの油を入れ、ゆっくりと全体にまわす。やはり、体で覚えたことは簡単には忘れてはいない。今回は少し多めの3個の溶き玉子を投入。ささっとまとめて、トトンとひっくり返す。おほっ! あり? おや? 雲形・・・定規の・・・完成。
 まあ、とりあえず、なんというか、形よくお皿に盛られたぺチャップライスの上にボテッと載せてみる。ナイフでムギュッと切ってみる。デロンと広がってみる。寝相の悪いオヤジのようだ。

 子供の前に、お皿を並べてみる。
「何これ」
「オムレツ」
「え?」
「オムレツ」
 言い張る。子供は納得いかない様子で一口。
「味わあ、いいんだけどお、形があ、いま一歩ぉ・・・」

 人間、覚えた事も、「一部」忘れることもあるらしい。この後、先生とお酒を飲んだら、さらに忘れる。間違いない。

パートナーのひとこと

 子供にいいとこ、見せてやれよ!

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