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第90話 そば粉のシフォンケーキ

 「む、これは」
 食料品の整理をしていて、そば粉を見つけた。例によって、パートナーがどこぞで購入して、しまい込んだものである。しかも、賞味期限が切れている。
 「またか」
 使う当てのない品をなぜ買うのか、私には分からない。うちには蕎麦打ちの道具など一つもないというのに。勿体ないが仕方がない、と捨てかけて思い直す。これは一度、きっちり責任をとってもらうべきなのではないか。「緑の小豆」のときもさんざん文句を言ったが、「そんなこともある」で終わってしまった。ここは実力行使で行くしかない。

 休日に「これ、今日中に使うこと!」と、そば粉を押しつけるのが手っ取り早い。
 しかし、現在単身赴任中のパートナーは、月に1〜2回しか帰宅できず、新幹線に乗ってはるばる帰宅したパートナーに、賞味期限を過ぎたそば粉を押しつける事は、心優しい私には出来ない。私が、そば粉を使った料理を作り、責任取って食べてもらうしかあるまい。
 おり良く、このたびの帰宅は父の日。パートナーのために、パートナーが買ったそば粉を使って料理する。これだ。そうしてそば粉を使ったお菓子を検索し、そば粉使用量の最も多かったレシピが「そば粉のシフォンケーキ」なのである。

 材料はプレーンのシフォンケーキと同様だが、小麦粉が15g、そば粉が55g入る。
 シフォンケーキは、初挑戦である。成功の鍵は、卵白の泡立てらしい。玉子4個分の卵白に三温糖を入れながら、硬く硬く泡立てる。それを、卵黄に粉やサラダ油、牛乳を混ぜた生地に、3回に分けながら加え混ぜる。混ざった生地を、高いところからシフォン型に流し入れると、リボン状に折り畳まれながら、型の8分目ほどまで入った。
 「いい感じじゃん?」
 オーブンで途中、切り込みを入れながら30分ほど焼いていくと、生地は大きく膨らみ、型から2センチほど盛り上がっている。
 「おおーー!!!!!!」
 大喜びの私は、パートナーに自慢しまくる。
 「なあんだあ、シフォンケーキなんて、私にも出来るんじゃん! かんた〜〜〜〜ん」
 パートナーは私の目を見ずに言う。
 「膨らむことは膨らむの。これからしぼむの。膨らまないのと、しぼむのは違うの」
 そう言い置いて、飲み会に出かけてしまった。私は、一升瓶に逆さに刺したケーキを10分おきに見に行きながら、完全に冷めるのを待った。そして1時間後。
 「しぼまないじゃ〜〜〜〜〜〜ん!!!」
 型から外し、盛り上がった部分を切り取り、試食してみる。
 「こ、これは・・・」
 噛むとジュッと小さな音がする。柔らかく、且つしっとりしている。しかしその味わいは
 「そばボーロだ・・・・・」
 とても素朴で、懐かしい味である。
 「そばボーロって、そばだったんだ」
 いまさらながら、そんなことを思いつつ、メープル風味のホイップクリームを添えれば、上等なデザートの出来上りである。
 「父の日おめでとう、さあ召し上がれ!!」

 予想以上の出来映えのシフォンケーキを作り上げ、残った245gのそば粉を、うっかり捨てられなくなってしまった私なのだった。

教訓

 粉にも賞味期限がある。

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たぶん12万