トップページへ

第99話 鴨 鴨 カモーン

 同じパターンの繰り返しの生活には、スパイスが必要である。コショウやナツメグといった香辛料ではなく、非日常的な経験のことである。例えば、富士山をえっちらおっちら登山するとか、スカイダイビングでぶわ〜っと落ちてみるとか。そこまではやらないにしても、温泉に浸かって、心も体ものび〜っと伸ばすとか、待ちに待ったサスペンス小説で、はらはらどきどきしてみるとか、迫り来るホラー映画で、キャーッと悲鳴をあげたりとか、人によって様々である。

 我が家では、パーティーも、非日常のひとつである。今回は何にしようかとメニューを考えるあたりから、料理にチャレンジして、食べるところまで、待ちに待ったサスペンス小説級くらいの非日常度である。

 今回のパートナーお誕生日会は、いつもの鶏豚牛ではなく、鴨か羊とのリクエスト。いつもと違う肉の料理方法をイメージしていると、つい「肉のS」を思い出す。

 以前住んでいた仙台市郊外にある「肉のS」という肉屋さん。ちゃんとした肉屋さんらしいのだが、その外観はものすご〜く怪しい。通りに面した入口といい窓といい壁といい、怪しい肉の名前を書いた紙が、ベダベダベダベダと貼ってある。ウサギ・カエルはいうに及ばず、ワニ・クマ・トドといったラインナップが目に刺さる。目玉商品が「イノ・シカ・ダチョウセット」というから、なんというか、ホラー映画級の肉屋さんという感じ。お店が放つ怪しいオーラにびびってしまい、ついに行かないままになってしまった。

 今住んでいる近所にはSのような肉屋さんはない。鴨か羊なので、Sまで行く必要もなく、パートナーと相談の上、どちらか手に入ったほうにしようということにした。
 以前に、ザラザラかぼちゃケーキ用コーンミールでお世話になった、大手百貨店系の食料品店に行く。鴨は、薄切り肉しか置いていない。せっかくのパーティーなのだから、ドーンと固まり肉にしたい。次は近場の駅ビルの肉屋さんへ。
 ドーンとした鴨の胸肉固まりが、平積みにされている。すぐさま3つゲットする。鴨南蛮そばなどで、薄切りは馴染みがあるが、固まりの方は、食べるのも料理するのも初めてである。実際に手に取ってみると、艶と弾力がありやや固め、紫色が強い。ふむふむ。

 鴨肉料理のレシピを調べると、フルーツソースの甘い系とあっさり塩辛い系という感じだ。今回は、とことん鴨を堪能するため、甘い系チェリーソースにする。調理の仕方にも塩コショウをして焼いた後、アルミホイルに包んで保温して置くという、ひと工夫があり、これで、皮はパリッと、中が半生になるらしい。

 パーティーの午後、料理に時間はあまりかからないようなので、ゆっくりめにスタート。鴨肉に、塩コショウをして、皮から焼く。少しして、脂が出てくる。ダバダバと出てくる。それはそれは出てくる。同時に、肉の焼ける香ばしい匂いが立ち昇る。裏返す。焼けた皮を見ると、羽の生えていた跡が幾何学的な模様のように並ぶ。動物と幾何学、相容れないものがひとつになった不思議な感覚を覚える。焼いている間、割と暇なので、そんなことを考えている。
 いい色合いに焼けたところで、ひと工夫のアルミホイルに包んで10分間放置。

 その時間でチェリーソースを作る。ダバダバと出た鴨脂に、ざくざくに刻んだアメリカンチェリーの缶詰をダバダバと入れ、赤ワインもダバダバと入れる。あとはとろみがつくまで、かき混ぜながら煮詰める。ダバダバの鴨脂が気になる人は、最初に減らしておけばよい。赤ワインとチェリーのあま〜い香り。日本人は、甘い果物のタレを普段使わないので、少し違和感があるが、テリヤキソースだって充分甘いのだから、まあいいか。

 10分タイマーが鳴ったところで、アルミホイルを開く。脂の匂い。見た目はもちろん変わっていない。これを、熱いうちに斜めに薄く切る。皮のパリッとした感触。いい感じ。皮を押さえる指が、指が、脂が熱い! 包丁で切ると、綺麗な紫の肉色が現れる。いひひ、うまくいったようだ。皿に盛り付け、チェリーソースをダバっとかけて完成。

 さあ、お誕生日会の始まり。テーブルにはオードブル、鴨ステーキ、今回「も」上手に膨らんだシフォンケーキが並ぶ。
 乾杯!!
 さっそく鴨を口に入れる。う〜〜ん、甘く香ばしい。濃厚な味わい。しかも、結構、噛み応えがある。がむがむがむがむ。け〜っこう応える。お腹が膨れてしまった。がははは。

 食べ終わってみると、サスペンス小説級というよりは、のんびり温泉旅行級のパーティーで、伸び伸び満腹の満足満足である。後日、子供から、
「この間のお、鴨みたいなあ、ちょっとお、変わったあ、味付けのお、肉料理がいいな!」
というリクエストのお言葉もいただき、改めて、がははは。

 だけんどもしかし、何か物足りない感じするのはなぜだろうか。人間、のんびり系の非日常だけではだめで、やはりスカイダイビング級の刺激が欲しくなるものなのだろうか。トド肉、ダチョウセット。「肉のS」。清水の舞台からダイビングしたつもりで、仙台に・・・行ってみる・・・かなあ・・・

教訓

 食べたことないものは、料理できないよね。

トップページへCopyright (C) 2006 k-ogasa. All Rights Reserved.

たぶん12万