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第101話 好きなチョコレートを使おう

 子供の頃、ケーキのチョコレートはおいしくないと思っていた。苦いばっかりで、ちっとも甘くない。メリークリスマスと書かれたプレートも、パリパリのコーティングも、子供の小遣いで買えるパラソルチョコレートも、ちっとも甘くなかった。

 そんな中、私の中でのチョコレートの王様は、なんといっても明治のミルクチョコレートで、抜群に甘くておいしかった。駄菓子が中心だった子供には、高価だったと記憶している。お客さんがお土産でくれるとか、イベントの時くらいしか食べられなかったことも、そのおいしさの何割かだったかもしれない。

 大人になって、家族のためにケーキを作るようになるなど、当時は想像すらしていなかった。今では、製菓用チョコレートを、汗だくで、ガリガリ削ったり溶かしたりもしてしまう。その合間にちょっとつまみ食いしてみたが、やっぱりおいしくない。パートナーに、おいしくないのはなぜかと、素朴な疑問を投げつけてみたら、
「製菓用チョコって、おいしくないんだよねえ」
と、これまた素朴な答えが、見事に打ち返されてきた。ふむ。

 そんな折、子供からケーキのリクエストが来た。
「スポンジもぉ、チョコレートなんだけどぉ、上にもぉ、テラテラのぉ、チョコがぁ、かかっていてぇ、横のほうがぁ、隠れてぇ、お皿にかかるくらいぃ、たら〜ってぇ、垂れているケーキ」という、句読点を除いて74文字も注文のあるリクエストだ。今では、高級GODIVAのチョコレートだって、心の痛みをあまり覚えなくて済むくらいに、小遣いも増えたのだから、チョコレートケーキを作るときだって、好きなチョコレートを好きなだけ使えば、うまいチョコレートケーキがたらふく作れるのだ。

 手際のよいパートナーが、生協の宅配サービスに王様ミルクチョコをチャチャッと注文し、ザッハトルテなるドイツのチョコレートケーキの作り方まで準備してくれた。作り方を眺めるが、特別な技法は何もない。バターと王様チョコを溶かし、卵黄とグラニュー糖、さらにアーモンドパウダーを入れて混ぜる。これに、卵白とグラニュー糖を混ぜて泡立てたメレンゲと振るった小麦粉を入れ、さっくり混ぜる。製菓用チョコのクーベルチュールを使って、温度管理と甘みの調整をきちんとやれば、ツヤとコクのあるものが作れるらしいのだが、お手軽でうまければ、それで十分である。

 上にかけるチョコクリームは、生クリームを沸騰寸前まで熱し、王様チョコを加えて混ぜるだけ。ネロネロネロネロと混ぜていたら、な〜んか、水がしみ出してきた。水? 生クリームとチョコ。水は・・・ない。はて? そうこうしているうちに、王様クリームに、網目状のしわが寄ってきた。網目? しわあ? しわの寄ったクリームというのは、見た目気持ち悪いのだが、つまみなめしてみると・・・とてもうまい。おっけ〜! 先に進もう。

 生地を、オーブンに入れて焼く。焼きあがったスポンジを取り出して、冷ます。押す。かだい。まあ、こんなもんだ。気にしないようにしよう。
 さて、王様クリームを、スポンジの上からかける。トロ〜ッとしたクリームが、「上にぃ、テラテラかかりぃ、横にたら〜ってぇ」、19文字くらいは垂れるはず。だけんどもしかし、上から・・・トロ〜ッと・・・ッとお?・・・ボテッ! ありり、2文字分くらいしか垂れてこないぞ。ゴムベラで、延ばして・・・って、ブニブニ・・・ニ・・・。なんだか感触が気持ち悪い。これ以上延ばすと、せっかくのテカリがなくなってしまうおそれがある。3文字分くらいは横に垂れているし、完成としよう。

 頂く時間。切るナイフは重いが、甘い香りが香ばしい。みっちりとリッチな口ざわり。しわのよったチョコクリームが、トロッと甘くて、うまいんだよねえ。ほんと、王様気分。

 明治ミルクチョコレートが王様なら、その次はでん六ピーナッツチョコだった。明治ミルクチョコは板状でつるっとしているが、ピーナッツチョコは、ピーナッツのせいで形がぼこぼこ。でも、チョコがとても甘くておいしかった。見た目がいまいちでも、中身がよければうまいのだ。そうだ。ちょっとくらい水がしみ出したって、うまければいいのだ。そうだ、そうだ。ちょっとくらい容姿端麗でなくても中身がよければ・・・そう思いたいものだ。

パートナーのひとこと

 生クリーム、分離していない?

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