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第111話 心の栄養剤

 先日他界した義理の母が千葉の病院に入院していた頃に、仙台に住むパートナーの姉がお見舞いに来た時のお話。

 闘病生活の前半、義母は仙台で、義理の姉の家で在宅治療し、その後、大病院に入院していた。義姉は、献身的なサポートを続けていた。自分がしっかりしよう、自分が何とかしなくてはと、小柄な身体が不安と責任感に押しつぶされそうになりながらも、考え、悩み、そして行動していた。義姉だけではなく、家族や親戚各々が自分にできる限りのサポートを行っているのだが、それも長期に及ぶようになると、徐々に肉体的、精神的な疲れが出てくる。
 病状が回復しているのなら、元気も出るだろうが、少しずつ悪化するにつれ、義姉〜パートナー間のメール往復便にも、愚痴の量が増えていく。自分の努力が結果に結びつかないのは、やはり苦しいものだ。

 さて、義母が、もっと環境のよい千葉の病院に移ることになった。今度は仙台組に代わって、千葉組が直接的なサポートをし、義姉は定期的に見舞いに来るということになった。
 その第1回目のお見舞いだが、義姉はのっけから、疲れる高速バスで約5時間かけてやって来るのだそうな。体力がありそうな気が全くしないが、お金がないとかで頑張るらしい。

 何でもない時に普通に遊びにくるのなら、おもてなし料理に腕を振るい、お酒を酌み交わしながら、しばしご歓談するところである。しかし今回は、お気楽旅行でもない、到着予定は夜9時過ぎ、夕食も済ませてくるという。しかも義姉は、我々に負担をかけまいと遠慮して、何の世話もしなくていい、寝るところさえ提供してもらえれば十分と言う、
 とは言え、放ったらかしにはできない。放ったらかしどころか、私は義姉を何とかもてなすというか、労いたいと思った。これまで張り詰めっぱなしだったし、今は病気に対する不安に加え、自分で世話ができなくなるもどかしさを抱えている。我が家に来た時くらいは、ほんのちょっとでもそんな心を緩めてもらう、心の栄養剤になればいいなと思ったのだ。
 だけんどもしかし、条件が悪すぎる。どうやってもてなしたものか頭を抱えてしまった。

 当日、予定通りの時刻に、義姉はやって来た。予想したとおり、長旅で背中がこわばり、精神的にも疲れているように見えた。体のこわばりはお風呂でほぐしてもらうとして、心のこわばりほぐしに悩みに悩んで準備したのは、ティラミス。チーズを使ったイタリアンデザートである。マスカルポーネという柔らかいチーズに卵黄を混ぜ、生クリーム+グラニュー糖をゆるめに泡立てたものを加えて冷やす。底にはコーヒーをしみこませた薄いスポンジを敷き、上からはココアパウダーをふりかけると、コクと甘さと苦味が程よく絡み合ったデザートができる。割とお手軽に作れるうえに、なんとなく高級感も醸し出せる、ぴったりの栄養剤ではないだろうか。

 テーブルについて、パートナーと義母の話を始めたところで、イタリアンな栄養剤をお出しする。予想外のものが出てきた義姉は、キョトン+ちょい困ったモードになっていたが、作っちゃったんだもんと、ティラミスを押しつける。まあ、最後にはうれしそうに食べ、しばしご歓談。やはり、女性に甘いものというのは、場を和ませる効果抜群である。

 お風呂で体のこわばりもほぐしてもらい、ティラミスでファイト満タンになったと思いたい義姉は、翌日笑顔でお見舞いに出発していった。体が疲れた時には、きちんと食べ、きちんと休み、回復させる。辛い時、困った時には、心にだって栄養をあげて、休ませ、回復させないと。ね。

パートナーのひとこと

 寝る前に食べると太るよ。

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