こうしてしばらく自宅の部屋の中でスカートをはいたりお化粧をしたりする生活の中で、女の子として外の世界に出てみたいと考えるようになりました。

 こう考えるようになったのは、このちょっと前にその存在を知ったメンズリブの影響がありました。ひとつには、渡辺恒夫という方が著した「脱男性の時代」という本があります。この本には、「女装をする場合は、自らが内に持つ女性人格を人との交わりの中で正常に発達させるために、ひとりだけの世界で女装することなく、外の世界で女装するようにした方がよい」というような記述がありました。そしてもう一つは、男性解放という考えに触れるうち、「自分で行動しなければ何も変わらない」と思うようになったことです。男性解放の考えからいえば、男性のままでスカートをはく「メンズスカート」の方がもっと良いのでしょうが、あたしにとっては「女性のように綺麗に可愛くなりたい」という幼い頃から持っていた願望の方が遙かに大切なことでした。

 それは '98年8月8日土曜日のことでした。この原稿を書いているのが '00年8月8日ですから今からちょうど2年前のことになります。あたしはその日、今日こそは外の世界で女の子になろうと心に決めました。そして、スカートやお化粧道具を旅行鞄に入れ、とりあえず電車に乗りました。どこに行くかはまだ決めていませんでしたが、インターネットで知っていた新宿の「スワンの夢」か高円寺の「キャッツ」のどちらかにしようと思っていました。新宿駅に着く頃には、「とりあえず、スワンの夢に行ってみよう」と決心し、インターネットから取り出した地図を片手に新宿2丁目方面に歩き始めました。新宿公園を目印に捜したところ、お店は簡単に見つけることができ、ビルの階段を昇って、ドキドキしながら扉を開けました。「いらっしゃいませ。・・・初めての方ですね。お名前は何とおっしゃるんですか?」と、カウンターにいたママに声をかけられました。加藤香織という名前は前からも何となく考えていたのですが、人前で使ったのはこの時が最初です。あたしは「ここで女の子になることができますか?」と聞き、トイレで着替えてもいい旨告げられると、トイレで30分ほどで着替えました。この日は結局、翌日の朝までいることとなり、晴美ママと他のお客さんのご厚意でルームでお化粧を落とし、着替えてから帰りました。

 あたしは女の子として扱われたことがとても気に入ってしまい、8月11日にもスワンの夢へ行ってしまいました。この日には、スワンルームの会員になり、ロッカーも借りました。そして、8月後半には1週間に4日も通い詰めたこともあり、新宿2丁目のスワンの夢は香織が香織としていられる、とても素敵で大切な存在になりました。