朝三暮四

 宋(そう)に狙公(そこう)なる者有り。狙(そ)を愛し、之を養って羣(むれ)を成す。
(よ)く狙(そ)の意を解し、狙(そ)も亦(また)公の心を得たり。
其の家口(かこう)を損(へら)して、狙(そ)の欲を充(みた)せり。
俄(にわか)にして匱(とぼ)し。将(まさ)に其の食を限らんとす。
衆狙(しゅうそ)の己に馴(な)れざるを恐るるや、
先ず之(これ)を誑(たぶら)かして曰(い)はく、
「若(なんじ)に茅(しょ)を与えんに、にしてにせん。足らんか」と。
衆狙(しゅうそ)皆起って怒る。俄(にわか)にして曰(い)はく、
「若(なんじ)に茅(しょ)を与えんに、にしてにせん。足らんか」と。
衆狙(しゅうそ)皆伏して喜ぶ。
(列子)


口語訳

宋の国に狙公という人がいた。猿を可愛がって群れをなすほど養っていた。
サルの気持ちを理解することができ、猿も同様に主人の心をつかんでいた。
自分の家族の食べ物を減らしてまで、猿の食欲を充たしていた。
ところが急に貧しくなったので、猿に与える餌の茅(どんぐり)を減らすことにした。
猿たちが自分になつかなくなってしまうのではないかと心配したので、
まず猿たちを誑かして言った。
「お前たちにどんぐりをやるのに、朝は三つで暮は四つにする。足りるか」
すると猿たちは皆起ち上がって怒りだした。そこで狙公は急に言い変えて、、
「それじゃ、朝は四つで暮は三つにしよう。足りるか」と言うと、
猿たちは皆平伏して喜んだ。


語釈

(そう):中国の春秋時代(BC770〜BC403)の国の名  狙公(そこう):猿飼い。猿まわし
(そ)=猿  羣(むれ)=群れ  家口(かこう)家族の食事  損(へら)して=減らして
匱(とぼ)し=乏しい  誑(たぶら)かして:欺いて  茅(しょ):橡(とち)の実。どんぐり



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