春暁   孟浩然

春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少


春眠暁を覚えず
処処啼鳥を聞く
夜来風雨の声
花落つること知る多少

口語訳

春の眠りはここちよく、いつ夜が明けたか気がつかない。
あちらでもこちらでも、鳥のさえずりが聞こえる。
昨夜は雨まじりの風が吹いていた。
花がいったいどれくらい散っただろうか。
(さぞかしたくさん花が散ったことだろう)

註:

1: 「処処」は「しょしょ」と読んで「あちこち、いたるところ」の意味で、「ところどころ」ではない。
2:「多少」には「多い」「少ない」「どれくらい」の意味があり、ここでは「どれくらい」と「多い」。


土岐善麿の訳詩

春あけぼのの うすねむり
まくらにかよう 鳥の声
風まじりなる 夜べの雨
花ちりけんか 庭もせに

註:

「庭もせに」の「せ」は「狭」。「庭も狭しとばかりに」。



勧酒   于武陵

勧君金屈巵
満酌不須辞
花発多風雨
人生別離


酒を勧む
君に勧む金屈巵(きんくつし)
満酌辞するを須
(もち)いず
花発
(ひら)けば風雨多し
人生別離足る



口語訳

君に勧める黄金の盃。
なみなみと注ぐが、遠慮はしなさんな。
花が咲けば、とかく風雨が多い。
人生には別離がつきものだ。

註:

金屈巵: 黄金の盃 
満酌: なみなみと注ぐこと
不須(もちいず): 必要がない



井伏鱒二の訳詩

 コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ



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