牧志田美衣の詩集 花よ樹よ草よきいておくれ第1章 桜

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息子は元気でやっとるだろか
便りのひとつも寄越さねが
便りのないのがいい便りと思うしかねぇ
と どんだけ思ったことか

あの子が都会に出てったのは
今と同じ
満開の桜のときじゃった
あん年はやけに早く花つけて
息子が喜んでいたっけが
「俺の花が咲いた
 俺の花が咲いた
 幸先いいぞ」
ってわめいておったけが

ちっとも寝ねぇあの子を抱いて
縁側を言ったり来たりしたもんだ
ばあさまがやってきて
「元気じゃ 元気じゃ
 大きい声じゃ
 うんと泣け泣け
 大声あげて
 大物じゃ 大物じゃ
 ほ〜れ見てみろ
 土手の上に桜の花が咲いとるぞ
 今年はじめて花つけた
 おまえの花じゃ
 祝いの花じゃ」
とあやしてくれた

息子が大きくなる程に
花の数も増えていく
「俺の花じゃ
 俺の花じゃ」
桜の花が咲くたびに
息子は喜んでおったけが







あれはいくつのときじゃったろ
タンコブ作って 泥だらけになって
桜の木から落っこった と
ベソかきながら 帰ってきよった
一体どこから落ちただか
痛い 痛いと泣いとった

「かあちゃん
 俺の桜は咲いとるか」
暗い声の電話は
ありゃ〜三年前のことじゃった
「ああ 満開じゃ」
と答えると
「よっしゃ」
と言って切りよった
何があったんじゃろなぁ

きのう
「かあちゃん
 俺の桜は満開か?」
弾んだ声の電話があった
「ああ 満開じゃ」
と言ってやると
「そうじゃろ そうじゃろ」
と笑っとった

「いい子じゃけん
 今度の週末連れてくで」


そうか
息子よ
おまえにも
満開のときが来ただな
祝いのときが来たんだな

掲載詩: 花見  桜堤  八重桜  山桜  しだれ桜  夜桜  さくらんぼ  花吹雪  花よどみ


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