杜 若 (かきつばた)



 諸国一見の僧が,都から東に向かう旅を重ね、三河の国八橋にやって来ます。沢辺には杜若が美しく咲き誇り、思わず見とれていると,そこへ、一人の里の女性が現れ、ここは八橋という古歌の名所であり、昔、在原業平が東くだりのさいに、ここで休み、「かきつばた」の五文字を各句の頭において「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」と言う歌を読んでという故事を教えてくれます。

 その上旅の僧を自分の庵に案内し、泊まって行くようにすすめます。 女性はやがて、業平の形見の初冠(ういかむり)に唐衣(からころも)を着て現れます。僧が驚いて素性を尋ねると、女性は杜若の精であると名乗り、静かに「序の舞」を舞います。

 それは杜若の精と業平と二条の后の姿を、三重に重ねた麗しい姿あり、草木成仏の御法によって成仏したと告げ、更に「伊勢物語」や業平について語りやがて消えて行きます。






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